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AKB総選挙で結婚発表した須藤凜々花は何が問題なのか?

須藤凜々花の結婚宣言に世間は騒然

AKB総選挙の結果発表の場でNMB48の須藤凜々花がぶちかました結婚宣言。メディアでもネットでも大きな話題になっている。「恋愛禁止など、そもそもファンタジー」などといった擁護論?も一部にはあるが、批判一色と言っていいと思う。しかし、須藤凜々花の結婚宣言のなにが悪いのか、多くの人が論じているがあまり本質的な議論は見当たらないと感じられる。

須藤凜々花の結婚宣言はいったい何が問題で、ファンの怒りの本質、そして現役メンバー、卒業メンバーなどの怒りの本質はなにか? 今回はそこを考えてみたい。キーワードは「仲間」だ。

AKBとキャバクラの本質的な違い

今回の結婚宣言を、キャバ嬢にたとえて語る人も多い。たとえば、タレントのマツコもその一人だ。

応援しているキャバ嬢から、「今月ピンチなの。20位に入らないとお店でやばいかもしれない。悪いけどドンペリ開けてくれない?」と懇願された、「いつもはドンペリを月に1本開けるか開けないかの男」が、「がんばって30本開けたとしますよ

須藤の結婚宣言は、キャバ嬢が客へ「ありがとう、どうにか今月20位に入れたわ。ところで私、結婚するんだよねといっているのと同じ」

http://www.sanspo.com/geino/news/20170619/geo17061917310025-n1.html

この説明は分かりやすい。しかしAKBというグループとファンの関係を正しくは説明していない。

アイドル・ビジネスは疑似恋愛ビジネスだとよく言われる。その意味では、アイドル商売はキャバクラやホストクラブに似ている。もちろんAKBグループや坂道シリーズ(以下、総称してAKB)にもその要素はある。しかし、AKB商法=疑似恋愛商法=キャバクラと同じとは言えないのだ。

キャバクラもホストクラブも基本的に客は人につく。お目当てのキャバ嬢やホストがいるから店に通うのであって、「店そのもの」がお目当ての客はまずいない。だから、たとえばお気に入りのキャバ嬢が店を変わると、客も店を変える。お気に入りのキャバ嬢が店を移ったからと言って「では、この店の他のキャバ嬢でいいや」とも思わない。やはりお気にの女の子を追って新しい店に客も移る。

まあ、銀座のクラブでも六本木のキャバクラでも、ブランド化した店が無いわけではないし、そのような店には「店の客」もいないわけではないが、「店の客」の本質はママの客であったり、あるいは新たなお気に入りの女の子をさがすためにある程度の品質が保証されたブランド化された店にいくだけで、お目当ての基本はやはり店ではなく女の子自身だ。

しかし、AKBのファンとは推しメンのファンであると同時jに、AKB自体のファンでもある。これはキャバクラにたとえば言えば「特定のキャバ嬢の客であると同時に店の客でもある」ということになる。これはつまり、メンバーの人気にAKBの存在が不可分であるということだ。前田敦子も大島優子もAKB48のメンバー故に人気があったし、だから卒業すると人気が下がった。

もちろん、この傾向はAKBだけでなく、たとえばモーニング娘。でも同様で、グループ在籍時以上の人気を卒業後に得ているメンバーはいない。しかし、AKBにはモーニング娘。など他のアイドル・グループにはない特殊性がある。それはファンとの関係性、というかファンの立ち位置だ。

AKB最大の特徴はいわずとしれた「総選挙」だ。僕もアイドル業界、音楽業界で仕事をしていたから分かるが、業界の人間は基本的に自分たちのクリエイティブに素人が口を挟むことを嫌う。選抜メンバーの人選だけなく、その立ち位置にまで素人のファンが口出しする。もっと言えば、自分たちの意図と違う結果が出たとしても、素人の意見に従わなければならいようなシステムなど、業界の人間にとってはあり得ないことだったのだ。AKBはそれをやった。これは、業界的に言えば画期的なことだった。

AKBが侵した最大のタブーとは?

AKBはさまざまな業界のタブーを侵している。それは近田春夫さんが指摘するように、

(1)射幸心を煽る。(2)劣情を刺激する。という商道徳上の古典的禁忌(とまではいいませんけどね)を、むしろ堂々と運営の基本理念にすえてしまった(笑)

http://ch.nicovideo.jp/shukanbunshun/blomaga/ar1283302

ということでもあるが、この二つ以上の禁忌破りが「総選挙」だと思う。

そして、その総選挙もまた、他の二つの禁忌と同様に「禁忌であったものをむしろ基本理念にすえた」結果でもある。

総選挙を行った直接的な理由は「投票権をCDにつけて売れば売れるんじゃない?」という単なるプロモーション的なアイデアだったかもしれないが、そこに至る背景にはやはりAKBというグループの基本理念が(たとえ運営側の無意識であったとしても)あってのことだと思う。その基本理念とは「コミュニティ」である。

「会いに行けるアイドル」をコンセプトに生み出されたAKB48であり、その常打ち小屋として作られたAKB劇場だが、これは単に「アイドルに会える劇場」だったワケではない。ファンがアイドルや運営と一緒にシーンを作り上げていける仕組みだったのだ。つまり、AKB劇場を作ってスターとした当初から、AKB商法とはコミュニティ商売だったのだ。

AKB商法はキャバクラ商法ではなくクラウドファンディング

AKBというグループはいろんな意味でモーニング娘。を踏襲しているが、モーニング娘。が生み出したにもかかわらず生かし切れなかったものを、秋元康はうまく活かしている。その最大のものが、このファンがシーン作りに参加できる仕組みである。

AKB商法の特長である握手会も総選挙も、その原型はモーニング娘。のデビュー・イベントにあると思う。当時、ASAYANという番組の「シャ乱Qオーディション」(はたけがプロデュース)に落選した中から5人の女の子を選び「手売りでCD5万枚売ったらメジャーデビューさせる」という番組企画を行った。そして、大阪、福岡、札幌、名古屋、東京の5カ所でメンバーによる手売りイベントが開催され、CDは見事完売。モーニング娘。はデビューすることになった。(ナゴヤ球場で完売したため東京は中止)

これは今で言えばクラウドファンディングそのものだ。この時の手売りCDの価格は500円。みんなが500円でCDを買えば、女の子たちの夢がかなう。そこに自分たちも参加できる。自分たちの力が、何かの役に立つ。クラウドファンディングの精神そのものだ。

その意味で、モーニング娘。のデビュー劇は今のネット時代の到来を予感させるイベントだったと思う。その意味では大きな金脈を見つけたのだ。残念なのは娘。のプロデューサーとなったつんくがアーティストだったことだ。当時のアーティストにはクラウドファンディング的な発想はなかったし、生理的にあわなかったのだろう。なので、せっかく見つけた大きな金脈を活かすことができなかった。それを秋元康はうまく活かした。

キャバクラやホストクラブで、ひいきのキャストやホストをナンバーワンにするために、客が高価なボトルを入れたり、シャンパン・タワーをしても、そのキャストやホストは売上げを上げるが、店そのものの価値を高めることにはならない。

しかし、AKBファンが一人で大量にCDを買ったり、イベントに足を運べば、それがニュースとなり推しメンの価値が上がるだけでなく、AKB自体の価値も高くなる。

総選挙の投票権のためにCDを大量に買い込むことは、推しメンのランクを上げるためでもあるが、同時にAKB現象というもの、AKBというシーンを作り上げるための投資でもあるのだ。これは、途上国に学校を作ったり、児童養護施設の子どもたちが大学に行けるための奨学金制度を作ったりするためにクラウドファンディングで「投資」することとまったく同じだ。だから、AKB商法とは(キャバクラではなく)クラウドファンディングなのである。

須藤凜々花の結婚宣言は「仲間への裏切り」

そして、クラウドファンディングの本質とは「コミュニティ」である。誰かの夢を基軸とした仲間の集まり、だから、AKB商法の本質は疑似恋愛というより、むしろ疑似コミュニティと言った方がいい。というか、疑似ではなくコミュニティそのものだ。つまり、ファンはメンバーや運営と同列の「仲間」なのである。

その意味で、須藤凜々花の結婚宣言はキャバ嬢の結婚宣言とは本質的に違う。キャバ嬢が太客に対して「わたし、結婚するの。店もやめるの」と言っても、それはキャバ嬢と客の間の話にしかすぎない。しかし、須藤凜々花の話は違う。仲間への裏切りなのだ。

当たり前の話だが、今のAKB人気はいきなり降って涌いてきたわけではない。指原莉乃も渡辺麻友も彼女たちだけの努力で人気を得たわけでもない。劇場にまったく客が入らなかった時代から頑張ってきた初期メン。その後を引き継いだ各世代のメンバーたちの頑張りの結果が今のAKB人気であり、AKBのポジションであり、それはこれからメンバーになる後に続く女の子たちの夢と未来でもあるのだ。

ものごとというものは、そのような過去・現在・未来のパースペクティブの上に成り立っている。今回の件で有吉弘行は「OBとかOGが学校来て文句言うのが一番ウザったい」と言うが、ことが「仲間への裏切り」に関することなら、コミュニティのOBやOGが苦言を呈するのは当たり前ではないか? コミュニティというものは、現役メンバーだけのものでは無いはずだ。

そもそもコミュニティにはOBもOGもない。コミュニティのメンバーとは、そのコミュニティを愛する者のことだ。AKBで言えば、メンバーも運営もファンも、卒業メンバーも、AKBを愛していれば全員がAKBコミュニティのメンバーだ。コミュニティのメンバーが「仲間への裏切り」に文句を言うのは当然なのだ。

「今どき、恋愛禁止など非現実的。幻想」という批判もあるが、あらゆるコミュニティ、それこそ国家も企業も地域コミュニティも、すべてもコミュニティは幻想の上に成り立っている。それを幻想だと批判したければ、あるいは破りたければ仲間であることをやめる、コミュニティから抜け出した上でやるべきだ。AKBで言えば、卒業した後に恋愛しても結婚しても、誰も何も言わないだろう。

今回の須藤凜々花の結婚宣言は、週刊文春による「お泊まりデート報道」に先手を打ってのものであることは明白だ。しかし、先手を打つにしても、もう少しやりようがあったのではないか?

「恋愛禁止」が前提のAKBメンバーとしては、恋愛スキャンダルももちろん「仲間への裏切り」ではある。しかし、仲間を裏切った人間がとるべき行動とは、まず仲間に対する謝罪だろう。それをやらずに、「結婚しますんで。仲間抜けます。バイバイ」では、本人はそれでいいかもしれないが、仲間はそうはいかない。この場合の仲間とは前述の通り、現役メンバーだけでなく、卒業生、運営、そしてファンも含めた仲間だ。

コミュニティ維持の本質は、仲間への裏切りにどう対処するかに尽きる。今回の結婚騒動を、運営はどう仕切るつもりなのか。対応いかんでコミュニティは崩壊する。これまでも何度か恋愛スキャンダルに襲われてきたAKBだが、今回の件はグループ最大の危機だと言えるだろう。

 

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竹井善昭

CSRコンサルタント、マーケティング・コンサルタント、メディア・プロデューサー。一般社団法人日本女子力推進事業団(ガール・パワー)プロデューサー。

ダイヤモンド・オンラインにて「社会貢献でメシを食うNEXT」連載中。
http://diamond.jp/category/s-social_consumer
◇著書◇「社会貢献でメシを食う」「ジャパニーズ・スピリッツの開国力」(共にダイヤモンド社)。 ◇翻訳書◇「最高の自分が見つかる授業」(Dr.ジョン・ディマティーニ著、フォレスト出版刊)

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