真っ白なドレスに身を包んだ長い黒髪の美しい女性が、豊かな湖上にある真っ赤なボートに乗っています。彼女の長い黒髪の後ろ姿が美しい。次の場面では彼女の顔がアップで映され、またその美しさに目を奪われます。
日本で初めて公開されるパキスタン映画『娘よ』は、すでに世界20カ国で公開されており数々の賞を受賞し、高い評価を得ています。
世界中で彼女の長い黒髪の後ろ姿と白いドレスが美しいと感じられることでしょう。日本でも同じです。
ところが制作されたパキスタンでは、あるいは彼女らが暮らすパキスタンの山奥の部族の女性が彼女の長い黒髪を見た時には、美しさに気づく前にイスラム圏ですべての女性がかぶるヴェールを身に付けていないことに驚きを覚えることでしょう。
パキスタンの女性は世界で思われているよりずっと多く活躍しています。女優や女性歌手の存在は当然のこと、女性社長、女性運動家、スポーツ選手、詩人、パイロット、軍においては女性将校、さらには女性総理大臣の存在まであり、女性の活躍は日本より目立つほどです。
ただし、どれほど活躍している女性でも必ず頭髪を覆うヴェール「ヒジャブ」を身につけています。そして貧富の差はそのまま女性の地位の差となっている印象を受けます。
ヴェール種類:Girl Power Insight「ヴェールをかぶるのは強制か意思か」
「美しい」頭髪を隠しなさいとのコーランの教えから離れる「自由」がそこにあります。その解放の映画を製作し、脚本を書き監督を務めたのは1974年生まれのパキスタン出身の女性、アフィア・ナサニエル。貧困や抑圧とは無縁に女性が強い家系で裕福な家庭に育った彼女が、パキスタンで実際に起こった事件ーーー10代で強制的に結婚させられる娘を連れて母親が部族から逃げた事件ーーーをもとに構想10年本作を製作しています。
冒頭にヒロイン女性の美しい黒髪の後ろ姿から撮影を始めたことに彼女らが長年抱えてきた心の痛みがあります。ヒロイン女性の名前アッララキの意味は「神のご加護」でもあります。
若く美しいヒロイン、アッララキは、10歳の一人娘ザイナブが部族間の対立を収束させるために相手部族の長への「花嫁」とすることを部族長の夫が決めたことを伝え聞きます。母親である彼女が若いのは、彼女自身が10代のとき年の離れた部族長の夫と結婚させられ出産しているから。
彼女が語ります。
「私は15歳で父方の親族と結婚したの。それで私の物語は終わり、後はもう何もない」
10歳の娘を連れて地下にある蔵に降り、古い箱を開けて大きな布を取り出し見せて、語ります。
「これは、結婚したときのベッドシーツ」
「シーツにある汚れはなあに?」
「血、よ」
「ママは怪我をしたの?」
「私の母は教えてくれなかったけど、あなたには教えてあげる。結婚すると、女は・・・」
「あら、それだったら知ってるわ」
目を見開いて驚く母親に、娘が続けます。
「女の子が男の子を見つめるでしょ、そして相手から見つめ返されると赤ちゃんができるの。だから私たちはうかつに家から出てはいけないのよ」
娘がお友だちから伝えられたその物語を聞くことによって、母は娘を連れて逃げることを決意します。
結婚の準備が整った場所から母が娘を連れて逃げることがいかに困難なことか。男性の誇りを傷つけることであり、見つかることは死を意味します。部族長の夫は相手部族の長に伝えます。
「我々も探す。あなたたちも探せ、二人を見つけたらどうにでもすればいい」
逃走を助ける男性(ハンサムで素敵)が現れ、逃走を遠巻きに助けたことで殺される男性もあります。
エンディングでは、オープニングと同じ彼女の長い黒髪が水面に映ります。
彼女は「自由」を得ることができたでしょうか。彼女の娘世代が大人になるときは社会や文化が変わっていくのでしょうか。映画を見終えてなお心臓の高鳴りが止まりません。
3月25日(土)岩波ホールにて公開 以後全国順次公開予定
パキスタン映画『娘よ』
http://www.musumeyo.com