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ロンブー田村淳「学歴よりも人間力を」は正論なのか?

ロンブー淳の学歴批判に賛否両論

ロンドンブーツ1号2号の田村淳は、日本のお笑い芸人の中では比較的、政治問題や社会問題への関心が高く、それらの問題をめぐる発言も多いような印象がある。そんな淳が学歴社会を批判したツイートを投稿。ちょっとした話題になっている。そのツイートとはこちら。

このツイートが拡散され、テレビなどマス・メディアでも報じられちょっとした炎上騒ぎに。淳のフォロワー同士の議論も巻き起こっている。

参考
日刊大衆
ロンドンブーツ1号2号・田村淳「学歴重視社会への苦言」に賛否両論
https://taishu.jp/detail/27268/

淳の発言に対する反論の代表的なものは「学歴はその人間が努力してきた結果」だというもの。

4月9日放送のフジテレビ「ワイドナショー」でもこの話題が取り上げられ、タレントの千秋も同様の内容の発言を。

「学歴は大事だと思う」とキッパリ。「日本に生まれたら全員が平等に勉強できる。その小中高の結果が大学だと思う」「就職する前に結果を出したのか、出してないのか計れる」と、学歴が採用決定の判断材料のひとつになる考えを示したのだ。

http://news.livedoor.com/article/detail/12911827/

昨今の教育格差問題を鑑みれば「全員が平等に勉強できる」という部分には反論もできるが、言いたいことは分かる。

本稿では「高学歴」という言葉を「高偏差値の大学、大学院を卒業」という意味で使うが、高学歴の人間の中には自分たちの学歴を「やるべき時にやるべき努力をした結果」だと考えている者も多く、学歴そのものよりも努力したことへのプライドが実は高い。ツイッターでもそのような意見も多数見られる。

いっぽうで、淳に賛同する意見として代表的なものは「高学歴者事務処理能力の高さ」を示すだけのもので、仕事の能力とは関係がないというものだろう。

しかし、この意見では受験エリートの実像を正確には表現できていない。

高学歴は事務処理能力の高さを示すものではない

「高学歴は事務処理能力の高さを示す」というのは、意外と多くの人が勘違いしている言説で、高学歴の人間でさえ間違って認識していることが多いが、高学歴が指し示すのは事務処理能力ではなく学習能力の高さだ。

考えてみれば当たり前の話だが、そもそも学習能力が高くなければ難関大学の受験に勝てるはずもない。もちろん、世の中には学習能力が高いのに、経済的、思想的、性格的等の理由で高い学力を得られていない人間もいるし、そのような人間が高校中退だったりFランク大学に進学するケースはあるにはある。しかし、難関大学の試験に合格した人間で学習能力が低い者はいない。

そして、これも意外と間違いされることが多いのだが、学習能力=事務処理能力ではない。事務処理能力は基本的に与えられた「作業」の処理能力のことだ。しかし、難関大学の試験問題を解くことは、単なる作業ではない。簡単な計算問題を猛スピードで解くといった「事務処理能力」の高さでは難関校は突破できない。高度な応用力がなければ特に理系学部の数学は解けないし、英語でも単語や文法の知識を詰め込んでいれば合格点が取れるわけでもない。高度な読解力が要求される。これらの能力は事務処理能力というよりも、むしろ仕事能力に近い。難関校受験に成功するためには、事務処理能力はもちろん必要だが、それを超えた各教科の本質を習得する学習能力が必要なのだ。

高学歴の人間は、このように高い学習能力を備えている。だから、企業が新卒採用において学歴を重視するのは当然のことなのだ。日本企業のような新卒一括採用においては、新入社員は一から仕事を覚えさせる必要がある。その時、学習能力が高い方が有利であることは言うまでもない。高偏差値大学の学生の学習能力が保証されているならば、採用において学歴重視することは理にかなっているのだ。

人間力とはいったい何か?

もちろん、世の中には高卒でも優秀な人間はいるし、東大を出ていてもまったく使えないヤツもいる。僕の経験でも、たとえばMARCH校レベルの出身者で、それこそ東大、早慶を卒業した人間よりも仕事能力が高い人間は何人もいた。Fランク大学出身で今では企業家として成功している人間も知っている。だから、学歴よりも人間力で評価を、という意見が出てくることは分かる。しかし、ではいったい人間力とは何なのか? 仕事の能力と人間力はどのような関係性があるのだろうか?

僕の経験から言って、高い仕事能力とはリーダーシップとクリエイティビティである。もちろん、リーダーシップとは単に「俺についてこい!」という強引で独善的な性格のことではない。チーム・メンバーのワクワクとやる気を引き出せる能力と、ゴール目標の達成に対する人一倍の情熱をキープし続けることができる能力のことである。クリエイティビティとは、トレンドやターゲットなどの分析力と、分析から新たな価値のあるコンセプトを生み出す力のことだ。これらの能力を兼ね備えた人間が「できるヤツ」なのであり、世の中に高い価値を提供できる。

しかし、そのような人間を新卒採用の場でどうやって見抜けばよいのか? まあ、世の中にはひと目見ただけで、そのような能力に長けていると感じさせる学生もいるにはいる。しかし、そのような学生はたとえ大学のランクが低くても、就活戦線ではけっこう勝てたりしている。中にはポテンシャルが高いのに就職できないという学生もいるが、そのような人間はそもそも起業家向きであって、就職には馴染まないのだ。成功した起業家の中にも落ちこぼれが多いのは、そのようなケースだからだ。しかし、ほとんどの場合、そのようなオーラを感じさせる学生はいない。見極めも難しい。したがって学歴を重視するしかなくなる。見極めができない要素を基準に採用することはできないからだ。

そうすると「リーダーシップもクリエイティビティもあるけど、大学のランクが低い人間は就職に不利だ」という意見も出てくるが、それはしょうがない。就活を有利に戦いたければ、高偏差値大学に行くしかない。プロ野球の選手になりたければ、野球の強豪校に入って甲子園に出場することが一番の近道というのと同じ理屈だ。

学歴重視はしょうがないというと「大学受験で失敗した人間は人生もそこで終わるのか」と思うかもしれないがそうではない。たとえ低いランクの大学出身でも高卒や中卒であっても、仕事の能力が高い人間はいずれ頭角を現す。受験においては学習能力の高い人間が勝つが、社会においては仕事能力が高い人間が勝つ。それだけの話だ。実際に僕も「東大を出たけど仕事ができなくて、40を超えて50を超えても、唯一最大の自慢が東大を出たことだけ」という人間も見てきた。東大を出ようが、Fランク大学を卒業しようが、仕事のできる人間の勲章は年を取るにつれ学歴ではなく仕事歴になってくる。東大を出たことが自慢できるのは、東大を卒業した時だけで、その後の人生では「どんな仕事をやってきたか」で評価される。そんなものだ。

というわけで、実は「学歴か、人間力か」という議論はあまり意味がない。というか、むしろ若者に対して害になると思う。このような議論はかえって若者(特に低ランク大学の学生)に対して「現実社会ではけっきょくは学歴がなければダメなんだ」というイメージを与えてしまう。若者は学歴に関して批判したり悩んだり絶望している間に、それこそ人間力や仕事能力を鍛えることに専念すべきだと思う。

 

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竹井善昭

CSRコンサルタント、マーケティング・コンサルタント、メディア・プロデューサー。一般社団法人日本女子力推進事業団(ガール・パワー)プロデューサー。

ダイヤモンド・オンラインにて「社会貢献でメシを食うNEXT」連載中。
http://diamond.jp/category/s-social_consumer
◇著書◇「社会貢献でメシを食う」「ジャパニーズ・スピリッツの開国力」(共にダイヤモンド社)。 ◇翻訳書◇「最高の自分が見つかる授業」(Dr.ジョン・ディマティーニ著、フォレスト出版刊)

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