「鬼十則」の削除で電通は終わる。
東大卒電通女性社員の高橋まつりさんの自殺が過労死認定された古都に関連して、「電通鬼十則」に対する批判が高まっている。
「電通鬼十則」は、広告の鬼と称された電通中興の祖である吉田秀雄氏が策定したもので、電通マンの規範となっているものだ。その名のとおり、十箇条からなる。
その内容は非常に苛烈なもので、これが社員を過労死に追い込む原因となっているという批判もあり、高橋さんの自殺の元凶でもあるという意見もあり、電通も社員手帳からこの鬼十則を削除することを検討しているという。
しかし、この鬼十則は、世界中のビジネス・パーソンから高く評価されているもので、米国の某ルローバル企業の社長室にも英語版の鬼十則が掲げられているという。電通鬼十則は電通マンだけでなく、すべてのビジネス・パーソンにとって、自分を成長させるために非常に有効な心構えであり、行動規範なのだ。
今は局長や役員になった電通マンも、若い頃には仕事で苦しい時や悩んだ時は、この鬼十則を何度も何度も読み返して自分を力づけたという。
その鬼十則が社員手帳から削除されるとすれば、それは電通スピリッツの消失を意味する。電通は終わるだろう。
たぶん普通の会社になってしまい、業績も落ちる。
「でも、社員の命には代えられないのでは?」と思うかもしれないがそうではない。もし、この鬼十則を上司がキッチリと守っていれば、高橋まつりさんの自殺も防げていたはずなのだ。つまり、今回の自殺事件も、部下が過労死するのも管理職が鬼十則を遵守していないことに起因する。
電通鬼十則を、上司の視点で若手社員に向けたものだとだけ考えると、過労死の原因になるように見えるだろうが、部下の視点も加えた全社的な視点で見れば、見え方も違ってくるし、むしろ過労死を防ぐことになると理解できる。
今回は、特にハイスペック女子の活かし方という視点で、上司は鬼十則をどう理解すべきかを解説する。
過労死を防ぐための、電通鬼十則の読み方。
電通鬼十則は以下の通りだ。
- 仕事は自ら創るべきで、与えられるべきではない。
- 仕事とは先手先手と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。
- 大きな仕事と取組め! 小さな仕事は己を小さくする。
- 難しい仕事を狙え! そして成し遂げるところに進歩がある。
- 取組んだら放すな! 殺されても放すな! 目的を完遂するまでは...
- 周囲を引きずり回せ! 引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地の開きができる。
- 計画を持て! 長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
- 自信を持て! 自信が無いから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚みすらがない。
- 頭は常に全回転、八方に気を配って、一部の隙もあってはならぬ!! サービスとはそのようなものだ。
- 摩擦を怖れるな! 摩擦は進歩の母、積極の肥料だ。でないと君は卑屈未練になる。
あまりにモーレツで、だから過労死を生み出すというのが世間の批判であるが、それは上司が間違った解釈をしていたからだ。上司や企業はこの鬼十則をどう解釈し、理解すべきか? ひとつずつ解説する。
仕事は自ら創るべきで、与えられるべきではない。
当たり前だが、自分で創った仕事と、与えられてやらされている仕事ではモチベーションが違う。同じ残業時間でもやらされ仕事は消耗するが、自分で創った仕事は消耗しない。つまり、過労死を防げる。パワハラ上司は往々にして、部下が自分で仕事を創ることを嫌がる。しかし、上司は若手社員が自分で仕事を創れる環境を創るべきだし、それが仕事だと認識すべきだ。
仕事とは先手先手と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。
口では「受け身ではダメだ」と言いながら、実際には「言われたとおりにやれ」というマインド・セットを持った上司も少なくない。しかも、その「言われたこと」が理不尽、非合理的である場合も多い。ハイスペック女子はそのような非合理生を特に嫌うが、そこを無理に押さえ込んで、まさに「受け身でやる」ことを強いるから、部下は消耗する。上司は自分よりさらに先手先手と働きかけていく部下をこそ評価すべきである。
大きな仕事と取組め! 小さな仕事は己を小さくする。
たいていの場合、部下を過労死や鬱病に追い込む上司は、重箱の隅をつつくような小役人タイプの上司だ。つまり、上司自身が大きな仕事に取り組まず、小さな仕事ばかりやっているから「己を小さくし」、部下にムダなストレスを与えて消耗させる。大きな仕事に取り組んでいる上司は、たいていの場合、おおらかでかつ厳しくて、そこが部下に慕われているものだ。
難しい仕事を狙え! そして成し遂げるところに進歩がある。
難しい仕事とは、前例のない仕事。これまで誰も成功できなかった仕事、誰が考えても無理と思うような仕事だ。このような仕事を狙うのは非常にチャレンジングだ。失敗すれば経歴に傷がつく。しかし、若者とはそのような難しい仕事に対して意欲的で狙いたがるし、それを成し遂げることで成長する。そのような若者を育てるためには、上司もまた難しい仕事にチャレンジすべきなのだ。
取組んだら放すな! 殺されても放すな! 目的を完遂するまでは
上司の仕事とは、若手の育成である。若手が一人前になって、ようやく上司は仕事を完遂したと言える。それなのに、部下に自殺させたり、鬱病で戦線離脱させたりしたら、目的を完遂できていないことになる。上司は、たとえ殺されても若手を成長させるべきである。
周囲を引きずり回せ! 引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地の開きができる。
これからの時代に必要なのは「巻き込み力」だ。周囲を巻き込み、引きずり回す人材が新しくて大きな仕事を成し遂げる。上司さえも引きずり回す若手社員こそが、将来の大物になると理解すべきだ。
計画を持て! 長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
企業における長期計画には、社会的なパースペクティブが必要だ。社会の成長無くして企業の成長無し。社会が崩壊すれば企業も崩壊する。だから、たとえば産休・育休の制度充実も、単なる福利厚生ではない。30年先、あるいは100年先、日本の社会がどのようになっているか、すべきかを見据えた上で、企業戦略を考える。そのような長期的な計画視点で上司は若手に向き合うべきだ。そうすれば、女性社員が子供を保育園に迎えに行くために、夕方4時に会社を飛び出してもイライラしたり腹を立てたりはしなくなる。
自信を持て! 自信が無いから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚みすらがない。
若手社員、特にハイスペック女子に対して理不尽で非合理的な文句をネチネチと行うのは、上司が自分に自信が無いからだ。職業人としても、男としても。だから、上司には、迫力も粘りも、そして厚みすらがない。だから部下はストレスをかかえる。上司は自分に自信を持つべきだ。それも、コンプレックスの裏返しの卑屈で尊大な自信ではなく、若手からのリスペクトが得られる、職業人としての在り方と仕事の結果に拠って立つリスペクトから得られる自信を。
頭は常に全回転、八方に気を配って、一部の隙もあってはならぬ!! サービスとはそのようなものだ。
頭と五感を常に全回転させ、世の中の動きに気を配る。「EDMたぁなんだよ?」とかうそぶいていないで、一部の隙も無く時代についていく必要が上司にもある。最近の若者は飲みニケーションも拒否するとか嘆く前に、なぜ拒否するかを考えるべきだ。若手が上司と飲みたがらない最大の理由は説教。そして昔話。僕が若い頃の年上の人たちは、飲むとみんな学生運動の話をしていた。それがものすごくめんどくさかった。今ならバブル世代はみんなバブルの話をする。それが若手にはめんどくさいはずだ。若手女子に教えを請うという姿勢で「一度、女子カフェというものに連れて行ってもらえないか?」くらいの感じでお願いしてみる。運が良ければ連れて行ってくれるだろう。そして、そんな気の配り方が「あの上司は若手に理解がある」という評価につながるだろう。そうなれば、若手社員が本当に考えていることや、本当に抱えている問題も見えてくる。
摩擦を怖れるな! 摩擦は進歩の母、積極の肥料だ。でないと君は卑屈未練になる。
上司が尊大・不遜になるのは、若手との摩擦を恐れるからだ。だから、自分の立場、ポジションを利用して頭から若手を押さえ込もうとする。オヤジ上司からすれば、ハイスペック女子は外国人男性以上の異分子だ。だから、彼女たちとまともに向き合えば、さまざまな文化的摩擦が起きる。それを頭から押さえ込もうとするから無理が生じる。摩擦を恐れず、肥料とする。でないと、上司は卑屈未練になり、若手をムダに消耗させてしまう。
いかがだろう? 上司が鬼十則を正しく理解して仕事に活かせば、ハイスペック女子のみなさんもずいぶんと働きやすくなるのではないだろうか?
電通鬼十則のような行動規範は、仕事人生のうえでの道具でしかない。道具は正しく使えば有益だが、間違った使い方をすれば凶器にもなる。高橋まつりさんの自殺は、間違った使い方の悲しい結果だった。しかし、それは上司の間違いであって、鬼十則が間違っていたわけではない。そこを理解しなければ、社訓を変えても同じことが起きるだろう。電通の管理職はもちろん、すべての企業の管理職はもう一度、上司の立場で電通鬼十則を読み直すべきだろう。