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働き女子に伝える、最も重要だが誰もできていないビジネススキルとは?

僕はマーケティング・プランナーとして、またメディア・プロデューサーとして30年以上働いてきた。これは多種多様な業種、企業と仕事してきたことを意味する。また、さまざまなビジネス・コンテストの審査員も務めてきた。

これらの経験から、日本のビジネス・パーソンに共通する弱点というものが見えてくる。どのような業種、どのような規模の企業、どのようなステージ(スタートアップなのか、老舗企業なのかなど)に関係なく必須のビジネス・スキルというものがあるが、それがまったくできていない。少なくとも、ほとんどの人が習得できていないスキルというものがある。

それはマーケティングとコンセプト・ワークだ。

この2つは、あらゆるビジネス領域において根幹を成すスキルであるにもかかわらず、キチンと習得できているビジネス・パーソンはほとんど皆無だ。どれくらいできていないかというと、外資系大手コンサルのコンサルでさえできていないというくらいできていない。

しかし、あらゆる事業、あらゆる商品の核にコンセプトがあり(というか、そもそもコンセプトとはその「核」のことだが)、どのような事業もマーケティングを行う。

マーケティングという言葉は非常に「理解されていない」言葉だと思う。一昔前まではマーケティングといえば、ビジネスの最前線でも「販売促進」の事だと思われていたし、今でも単なる広告プロモーション程度にしか理解していない人も多い。しかし、マーケティングとはその名のとおり「市場(マーケット)を作る」のが仕事だ。その意味でも、マーケティングと無縁のビジネスなどあり得ない。

かのドラッカー先生もこう喝破している。

経営とはつまるところイノベーションとマーケティングだ。

つまり、マーケティングとは経営そのものと言って過言ではないのだ。

また、コンセプトという言葉は、おそららく日本のビジネス社会ではマーケティングという言葉以上に理解されていない言葉だと思う。

もう30年位前になるが、まだ若かった僕は勝手に「コンセプト・メーカー」という肩書きを作って名刺に入れていた。すると会う人から必ず「コンセプトってなんですか?」と質問されたものだ。大企業のマネージャー・クラスでも当時はそんなものだった。

今ではそんな質問をしてくる人はいなくなったが、ではちゃんとコンセプトというものが理解されているかというとそうでもない。ある時、外資系コンサルのプレゼンを聞いていて、どうにも焦点がハッキリしないのでプレゼンターに「悪いけど、このプランのコンセプトを説明してもらえる?」とリクエストした。すると彼は、その「コンセプト」を延々と語り始めたのだ。

その説明が1分を超え、2分を超え、3分くらいになった時に、イライラした僕はその説明を遮ってしまった。

ここで僕がなぜイラついたのか、瞬時に理解できる人はコンセプトの意味を理解している人だ。わからない方には、この後で詳しく解説するのでぜひご覧いただきたいが、ようするにこの話で言いたいことは、このプレゼンターはコンセプトの意味をまったく理解できていなかったということだ。外資系コンサルでもこの程度である。

というわけで、マーケティングもコンセプト・メークも、ビジネス・パーソンにとって必須のスキルで、一生使える基本技なのに、習得できている人が非常に少ない。ということは、習得すればかなり優位というわけだ。巷には多種多様なビジネス・ノウハウ本(別名:小手先ノウハウ本)が溢れているが、しっかりとこの二つのスキルを習得した方がはるかに役立つし、コスパも良い。

というわけで、当サイトでも働き女子のみなさんのために、マーケティングとコンセプト・メーク(コンセプト・ワーク)について随時、いろいろとお伝えしていくつもりだが、今回はまずはコンセプトに関しての、基本中の基本をお伝えする。

コンセプトってなに?

コンセプトとは、辞書的な意味では「概念」ということだが、あらゆる企業、事業、商品の根底にこの「概念」というものがある。なぜか?

企業でも事業でも商品でも最初は誰かのアイデアから始まる。アイデアを具現化したものが企業であり商品だ。しかし、アイデアを具現化する過程で、多くの関係者に対して「まだ具現化されていないものを理解させ、具体的にイメージさせる」必要がある。この過程が重要だが難しい。

以前、テレビの仕事をしていた頃、親しくしていたTVプロデューサーから電話があった。年末特番を作りたいから企画書を書いてくれというオーダーだ。それで、どんな番組にしたいのかと質問すると彼はこう答えた。

「ダイアナ・ロスがさあ、ライオネル・リッチーと一緒にやった曲あるじゃん? あんな感じ」

この一言だけで、僕は彼が望むとおりの企画書を書き上げたのだ。それができたのは、彼と僕の間に音楽文化の共有があり、その文化に対する理解があり、さらに彼とは何度も仕事しているから彼の言葉を理解する土壌ができていたから、たったこれだけの言葉で、彼が何をイメージして、どのような世界観をテレビという場に持ち込みたいかが理解できるのだ。

しかし、スタッフが多数の場合、こうはいかない。「プロデューサーが何をしたいのか?」ということを、スタッフが理解しなければテレビ番組は失敗するのだが、スタッフの数が増えると上記のような話が通じる人間などほとんどいないから、通じる言葉で伝えないと番組は作れない。これは、どのようなビジネスも同じだ。社長やブランド・マネジャーがなにをしたいのか、スタッフが正しく理解できないとビジネスは失敗する。

そこで、すべてのスタッフに正しく理解してもらうための「言葉」が必要となる(ビジュアルの場合もある)。その「なにがしたいのか?」を端的に表現したものがコンセプトなのである。言い換えれば、ひと言で理解させるための言葉。それがコンセプトなのである。

これで前述の、外資系コンサルがコンセプトについて2分も3分も説明したことに僕がいらついた理由もご理解いただけただろう。コンセプトはひと言、ワン・フレーズでなければならないのだ。

なぜ、ひと言(ワン・フレーズ)なのかというと、コンセプトとはアイデアを凝縮させたものだからだ。凝縮するからワン・フレーズになる。ワン・フレーズで表現できないということは、凝縮されていない、純化しきっていないということを意味するからだ。つまり、アイデアが十分に練れてなくて、やりたいことが明確になっていない。

ソフトバンクの企業コンセプトとは?

ここで実例を紹介しよう。ソフトバンクである。

ソフトバンクという企業は30年ほど前に、パソコン・ソフトの卸売り会社としてスタートした。その後、Yahoo!ジャパンを立ち上げポータル・サイト事業を行い、ブロードバンド事業に進出、そしてボーダフォンを買収してモバイルに進出。今後はAIをやるという。一見するとバラバラな、時流に合わせた出たとこ勝負の会社に見えるかもしれない。しかし、そうではない。

ソフトバンクという企業は、創業時から一貫して同じ事を行っている。それは「デジタル情報革命」だ。

「デジタル情報革命」というキーワードを通してみると、ソフトバンクが行ってきた、一見するとバラバラに見える事業が、実はすべてが首尾一貫していることが理解できる。これが企業コンセプトである。

もし孫正義氏が「ソフトバンクはパソコン・ソフトの卸売りの会社だ」と定義していれば、今のソフトバンクはなかったはずだ。そうではなくて、最初から「デジタル情報革命」というコンセプトがあり、そのコンセプトを具現化するビジネスが、時代によってパソコン・ソフトだったりポータル・サイトだったりモバイルだったりした。だから、今のソフトバンクがあるのだし、今後はAIだというのも単にAIがブームだからではなく、デジタル情報革命の次のステップとしてAIがあるという話なのだ。

このように、コンセプトは企業の在り方も未来も決定する。商品の在り方も決定する。

たとえば、ユニクロとZARAは業態としては同じファスト・ファッションであるが、商品も売り方もまったく違う。それは、ファッションというものに対する考え方(コンセプト)が違うからだ。両ブランドのテイストの違いはご存じのとおりだが、ユニクロの場合は「ベーシック衣料」というコンセプトがあるから、あのようなデザイン、ラインナップになる。そこがZARAと違う。企業コンセプトの違いが商品の違いとなり、ブランド・イメージに違いになるわけだ。

iPod勝利はコンセプトの勝利

商品コンセプトがその商品のスペックを決める事も多い。代表的な例がiPodだろう。

iPodの開発コンセプトは「1000曲入るウォークマン」というものだ。

これは、iPodが発売された2001年当時、画期的なコンセプトだった。「好きな音楽をどこにでも持ち歩き、どこででも楽しめる」というコンセプトはソニーのウォークマンが1979年に具現化させていたが、当初のカセットテープではせいぜいアルバム2枚程度しか入らず、旅行に行く時はもちろん、普段の街中でもカセット・テープを何本も持ち歩く必要があった。現実的には持ち歩ける曲数は、せいぜいアルバム10枚程度だった。

MDの時代になり、メディアの大きさはずいぶんと小さくなったが、録音できる分数は最大で80分でカセット・テープより少なかった。

そして、90年代後半になりMP3プレイヤーが登場。スマートメディアなどのメモリーカードによるプレイヤーで、メディアもプレイヤーの大きさも劇的に小さくなった。しかし、当時のMP3プレイヤーの標準的な容量は64MB程度。MP3の曲データは圧縮の方法などにより変わるが、当時の標準的なサンプリングレート44.1KHz 、ビットレート128Kbps で、J-POPなどの4分程度の曲を圧縮するとおよそ4MB程度。64MBのメモリーカード1枚に16曲、つまりここでもアルバム1枚程度しか入らなかった。そのメモリカードも1枚三千円程度と非常に高価で、音楽を聴くだけのために何枚も購入することは非現実的だった。

そんな時代に「1000曲入る」は画期的だった。これは50枚以上のアルバムを持ち歩けることを意味する。つまり、お気に入りのアルバムをほぼすべて持ち歩けるということだ。

なぜ、それが実現できたかというと、iPodはハードディスク(HDD)を搭載していたからだ。このHDD搭載というのは、当時は本当に衝撃的だった。

なぜなら、HDDというものは非常に壊れやすく、落としただけですぐに壊れる。そんな壊れやすいデバイスを、街中で持ち歩くことを前提としたポータブル・プレイヤーに搭載するなど、どこのメーカーも怖くてできなかったのだ。だから、落としても壊れないメモリ・カードを搭載していた。しかし、Appleは(ジョブズは)HDDを搭載してきた。なぜか?

それは「1000曲入る」というコンセプトにこだわったからだ。「1000曲入る」がコンセプト。そして、当時は1000曲入る記憶媒体はHDDしかない。だったらHDDを搭載しろ。壊れやすいとか関係ない。という(いかにもジョブズ的な?)発想でHDDが搭載されたのだ。

つまり、他のメーカーの発想は(コンセプトは)、MP3プレイヤーはあくまでポータルブル・プレイヤーでしかなかったのだが、iPodは「1000曲入る」という部分が完全に違っていた。そのコンセプトの違いが部品に対する考えたかを根本的に変えたのだ。

その結果、どうなったかはご存じの通り。世界中の若者は、落としたらすぐに壊れてしまうiPodを熱狂的に支持して買いまくったのだ。若者からすれば、「安全だが、持ち運べる曲数が少ないプレイヤー」より「壊れやすいが、圧倒的な曲数を持ち運べるプレイヤー」を支持したということになる。

ちなみに、コンセプトの違いはインターフェイスも変える。初期iPodの象徴となる例のホイールも、単なるデザインではない。1000曲もの曲数から好みの曲を選ぶには、それまでのMP3プレイヤーのインターフェイスではめんどくさくて現実的ではなかった。それを簡単に探し出せるようにしたのが、あのホイールなのだ。

また、1000曲もの音楽ファイルを管理するために、それに合わせたアプリも必要で、それがiTunesで、それが後にApple Musicにつながる。

iPodが成功したのは、製品のデザインやiTunesのアプリとしての完成度などいろいろと要因はあるが、そのすべては「1000曲入る」というコンセプトを具現化するためのものだ。その意味で、iPodが勝利したのはコンセプトが勝利したと言えるのだ。

この事例からも、コンセプトの重要性はご理解いただけるかと思う。

コンセプトの話は、ビジネスを行う上で非常に重要なので、さらに詳しく続編を書いて、読者の皆様の理解を深めるお手伝いをしていきたい。そして、コンセプト・ワークとマーケティングに関しても書いていくつもりなので乞うご期待であります。

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竹井善昭

CSRコンサルタント、マーケティング・コンサルタント、メディア・プロデューサー。一般社団法人日本女子力推進事業団(ガール・パワー)プロデューサー。

ダイヤモンド・オンラインにて「社会貢献でメシを食うNEXT」連載中。
http://diamond.jp/category/s-social_consumer
◇著書◇「社会貢献でメシを食う」「ジャパニーズ・スピリッツの開国力」(共にダイヤモンド社)。 ◇翻訳書◇「最高の自分が見つかる授業」(Dr.ジョン・ディマティーニ著、フォレスト出版刊)

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