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なぜ女性はベッキーをもう見たくないと感じるのか

2015年のクリスマスと迎えた新年を既婚男性と一緒に過ごしたことにかんして1月に謝罪会見を開き、その謝罪会見内容に嘘があったと5月のテレビ番組で謝罪したベッキー。8月9日発売『女性自身』の記事によると、現在はBS音楽番組の司会にレギュラー復帰した以外の仕事がなく、「いっそ、所属事務所から独立すれば」とまで思い詰めていらっしゃるようです。

ベッキーの問題は所属事務所の問題ではありませんため、独立したからといって事態は好転しません。現状のままでは多くの女性たちがベッキーをもう見たくないと感じかねないものです。

なぜ、もう見たくないと感じるのか。
それには3つ理由があります。
ひとつには、不倫会見で嘘をついたこと。優等生で明るくフレンドリーなキャラクターでテレビに出演していたベッキーが、会見では不倫映画を模したかの服装で現れて嘘をつく。これらはキャラに合わない違和感を覚えるものでした。
不倫会見のとき、「いけないことだと分かっていたけど、彼のことを好きになってしまったんです。ごめんなさい」と素直に頭を下げていれば今の状態にはならなかったかもしれません。

それでも問題は残ります。
2つめには「LINE」でのやりとりがあります。恋愛関係ではなく友だちだと嘘を突きとおす、あるいは、(これで堂々とできるから)ありがとうセンテンス・スプリング!ーーーーいっそ公の場でそういった発言していればまた異なるキャラを構築できたかもしれませんが、LINEによって表に出てしまったため、表の顔と裏の顔が違っていることへの不信感が残ってしまいました。
つまり、世の中の女性たちはベッキーを見たくないのではなく、嘘がばれるプロセスをもう見たくないと感じているのです。嘘がばれる場面を見て胸が苦しくなったという女性もあります。

さらに「3つめの理由」ですが、世の中の女性たちは、ベッキーの不倫問題を、無意識のうちに自分と置き換えて見ていました。

結婚している女性の場合は、妻の立場から見ます。
「私の夫のお金を使って二人きりで旅行し、夫の実家にまで訪ねていった浮気相手女性」として見ます、これは、家庭を脅かす存在に対する当然の視点です。
独身女性の場合は、既婚者を好きになってしまった自分と重ねたかもしれませんし、社内不倫している同僚に重ねたかもしれません。娘を持つ親の場合は自身の娘がもしも不倫をしたらと想像するだけで恐ろしくなります。

しかもさらに、ベッキーは不倫相手男性の妻と直接会っての謝罪を強行してしまいました。夫に浮気された妻たちが、浮気相手女性と会いたいなどと思ったりはしません。彼女が自分より若くて美しければ、情けない気持ちでいっぱいになり、いっそ死んでしまいたいとすら追い込まれかねません。私は、過去4万件近い夫婦相談の中でそういった方々をたくさん拝見し、ともに涙を流してきました。夫から裏切られた妻の苦しみを少しでも思いやることができれば直接謝罪の強行などできるものではありません。

謝罪は、とても難しいものです。
謝罪する側は「謝ったのだから禊(みそぎ)は終わった」と思うかもしれませんが、傷つけられた側の気持ちは謝られたからといって元通りになるものではありませんし、重ねて謝られると、「謝罪を受けたのに許すことができない私がいけないではないか」と、すでに傷ついている自分をさらに自分自身で深く傷つけてしまいかねません。

クリスマスやお正月を不倫相手と過ごしたい女性はじつは少なからずいらっしゃいますし、クリスマスとお正月や彼の誕生日といった特別な日を不倫相手と過ごすことができなくて(不倫相手は一般的に記念日を妻や子どもと過ごすため)彼の妻や子どもに嫉妬し、嫉妬する自分自身を責めながら悩み苦しむ女性のほうが多いものです。
それなのに、明るく楽しく不倫相手とクリスマスイブにディズニーシーへ行き、ホテルニューオータニ幕張で朝まで一緒に過ごすことができるなんて、ベッキーは世の中の不倫している女性たちの憧れの存在たりうるはずでした。
ベッキーのようになりたいーーー「私の不倫相手も、ベッキーの不倫相手のように豪華ホテルに宿泊させてくれたらいいのに」「私の不倫相手も、堂々と彼の両親に私を紹介してくれたらいいのに」と願う女性もいたかもしれません。不倫している女性は(表には出ませんが)数多くありますので、多数の共感者、支持者が現れても不思議ではありません。
ところが、そうはなりませんでした。彼女たちは、自分が行っている(過去行った)不倫がばれたときの「状態」をベッキーを通してリアルに「見て」しまったからです。

独身であっても既婚であっても、多くの女性は少しばかり嘘をつきます。もちろん男性も嘘をつくでしょう。その嘘は、相手を心地よくするための方策であったり、自分を守るための方便だったりします。
おおむね、人は「異性の嘘」には寛容です。男性は「女は嘘をつく生き物だ」と思いますし、女性は「男って嘘つきだわ」と思います。それが自分の恋人や配偶者でなければ直接的な被害もないためおおむね寛容に対応できます。たとえばタレントが不倫したからといって自分の身に害を及ぼすものではありませんので、本来はそれほど大騒ぎすることではありません。
ましてや、ベッキーの不倫は数多ある不倫の中では「軽度の不倫」ではなかったでしょうか。既婚男性と不倫して妊娠出産し認知や養育費を求めたわけではありませんし、既婚女性が自宅のベッドに男性を招き入れたわけでもありません。

それなのに、なぜ多くの女性たちがもうベッキーを見たくないと感じるかといえば、自分自身の中に少しは在る「嘘」がばれたときの恐怖を感じるからです。ベッキーを見たくないのではなく、嘘がばれるのを見たくない。それは、真面目に頑張り培ってきた仕事における「信頼」が一瞬で失われてしまうことへの恐怖だともいえます。

では、ベッキーは今度どうすればいいかといえば、復帰を焦らず時間を置くことです。たとえばアメリカに短期留学して語学力をブラッシュアップするのもいいと思います。
見る者自身がそれぞれの立場において持つ「恐怖心」を呼び覚ましてしまったのがこの度の騒動ですから、ベッキーのタレントとしての才能の有無とも関係ありません。視聴者の一定数の中に生まれてしまった恐怖心が消えるまで、静かに時間を置くこと。それはベッキー自身にとっても大切な時間だと思います。

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池内ひろ美

1961年生まれ。夫婦・家族問題評論家。家族問題コンサルタント。日本ペンクラブ会員。八洲学園大学教授(女子学・家族論)。
一般社団法人日本女子力推進事業団(Girl Power)代表理事。内閣府後援女性活躍推進委員会理事。一般社団法人全国危機管理推進事業団理事。一般社団法人国際教養振興協会顧問。
所属:よしもとクリエイティブ・エージェンシー

■著作
『とりあえず結婚するという生き方』ヨシモトブックス
『大好きな彼に選ばれるための25の法則』スターツ出版
『結婚の学校』幻冬舎
『妻の浮気』新潮新書
『良妻賢母』PHP新書ほか(31作品)

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