インサイト・インタビュー企画 第1弾
エグゼクティブ転職のカリスマ・コンサルタント 森本千賀子さん
さまざまな世界で活躍する女性に、これからの女性活躍時代に必要な女性のインサイトを伺う企画「インサイト・インタビュー」。第一弾は、株式会社リクルートエクゼクティブエージェンシー エクゼクティブ転職コンサルタントの森本千賀子さんです。
森本さんは93年、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)に入社。1年目にいきなりリクルート・グループ全社のMVPを獲得。以後、ナンバーワン営業ウーマンとして活躍。第二子の出産を機に、仕事と育児を両立させるためにコンサルタントへとキャリア・チェンジ。現在までに2000名以上の転職をサポート。現在はエグゼクティブに特化した転職サポートを行っています。
NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で紹介されるなど、テレビ、雑誌などマス・メディアでも活躍。「カリスマ転職コンサルタントが40代、50代で希望の転職を実現するノウハウを公開 35歳からの「人生を変える」転職」(秀和システム刊)、「後悔しない社会人1年目の働き方」(西東社刊)など著書多数。まさに「社会で活躍するスーパー・ウーマン」です。
そんな森本千賀子さんに、これからの時代のエグゼクティブ女性について語っていただきました。女性活躍推進のかけ声の中、企業はほんとうにエグゼクティブ女性を求めているのか? エグゼクティブ女性として必要な要件は? そして、なぜ、女性がエグゼクティブを目指すべきなのか? 森本さんがエグゼクティブ転職の現場で得たリアル・インサイトをお伝えします。
(インタビュー Girl Power専務理事 キャリア・コンサルタント 大野理恵)
女性活躍推進の時代、エグゼクティブ女性のニーズが高まっている。
(大野)ーー そもそも、エグゼクティブってなんでしょう?
(森本)組織の階層でいうと、部長職以上をエクゼクティブと定義しています。また、「事業責任者」もそれに入ります。例えば、海外拠点で新しい事業を立ち上げ、統括する方もエクゼクティブと位置付けています。
ーー昨今のエクゼクティブ人材のニーズは増えていますか?
増えていますね。
日系企業が経営戦略としてグローバル展開する流れが増加していて、グローバルで戦える社内の人材がいないという課題がでてきています。そうなると、ふさわしい人材を外部から呼び入れるという選択肢がでてきます。日産のカルロス・ゴーンさんのように。
閉鎖的だった日系企業も、外部人材の流入の壁が徐々に取り除かれてきた感じがします。グローバルで戦うことのできるエクゼクティブのニーズは今後も年々高まってくると思います。
ーー外部人材としてのエクゼクティブ人材に求められることはなんでしょう?
外部人材に期待されていることとして、「新しい風を吹かす」ことが求められています。パラダイム転換が起こっている中、「過去と同じやり方だと勝てない」からです。これまでの慣習を否定し、全く新しいやり方を導入できるのは外部から入ってきた人材です。長年組織に定着している人たちはなかなか過去を否定できない傾向にあります。
ーー 女性活躍推進が政策課題になっていますが、実際に女性エクゼクティブのニーズは高まっているのでしょうか?
高まっています。昨今の「ダイバシティーの重要性」が変化の後押しとなっています。
ダイバシティーを促進するには、異なる価値観を持つ女性が組織に入る必要があります。
特に経営層に女性が加わる意義があるのです。
男性とは違った価値観を持つ女性が意思決定の場で男性とは異なる視点の意見やアドバイスを行うことで、これまでとは異なる意思決定がなされることが期待できます。
ーー 先日小池百合子さんが意思決定なさった「築地移転延期」の件もそうですよね。
そうですね。女性は「保身」に走る傾向は少ないです。なぜならば、組織におけるしがらみが薄いし、感じない方も多いかもしれません。だからこそ、思い切った決断ができるのでしょう。
企業側も、このようなドラスティックなジャッジメントをしてほしいと女性エクゼクティブに期待していることは事実です。
ーー 現在の女性エクゼクティブの方にみられる特徴ってありますか?
「潔さ」「柔軟さ」を持ち合わせています。一言で表現すると、「男前」です!
キャリアの考え方として、「キャリアスライド」をお持ちです。男性は、キャリアアップいわゆる職位をあげていくことに意欲や理想を持ちますが、女性は比較的「やりたい業務や内容」にこだわる傾向にあります。特に職位にこだわりを持っていたわけでなく、やりたいことを追求した結果、現在のポジションに行き着いた方が多いように思います。
ーー そのようなエクゼクティブを増やすために企業が最優先でやるべきことはなんでしょう?
女性活躍推進法が施行した4月から、女性管理職の比率をアップを目標に掲げている企業がほとんどです。この目標を達成するにはいくつかポイントがあります。
まずは、経営者であるトップ自らが「女性活躍の必要性を本気で感じて、旗をふること」です。
女性が活躍することで、自社にメリットがあることのイメージを持つことが実現の第一歩です。
本気で旗をふると、様々な経営課題に着手できます。例えば、長時間労働の是正、男性社員の育児参加などをどのように扱うのか。
本気度を社員へ見せるにはほんの少しの工夫で良いのです。
先日研修でお伺いした企業さんでの一コマ。女性活躍推進をテーマとした一日研修に、社長含め全役員の方が終日オブザーブなさっていました。また、懇親会でも経営者が自ら女性へ声をかけて色々な意見を言わせ、聞いていました。
このような経営者の姿勢をみた女性社員の方々は、おそらく経営層の本気度を感じたと思います。
ーー 形だけの振舞いをしている経営者もいて、それが伝わらない場合もあるかと思います。
それが悪いとは言いません。
経営者が心の底から女性に活躍してほしいと思えるようになるためには、2つポイントがあります。
ひとつは、過去一緒に仕事をした女性の良さを思い浮かべることです。
本気で旗振りをしている経営者の方の共通項は、「駐在経験があり欧米で多様な文化を味わっている」ことです。国籍や性別に関係なく様々な人と仕事をしてきた方は、女性が社会で当たり前に活躍している光景が普通なのです。だからこそ、女性の働きづらさが色濃く残る日本の企業文化に違和感を持っている経営者は少なくないです。
二つ目のポイントとなりますが、仮に前述した経験のない経営者の方がいれば、ぜひ今から女性と一緒に仕事をしてみてください。女性の能力が認識すうることができ、女性活躍のメリットを感じられると思います。
女性活躍推進のためには、イクボスを育てるべし。
ーー 女性活躍を加速するには「イクボスの育成」を重要視していらっしゃいます。その理由は?
これまでお会いしてきたエクゼクティブ女子に毎回同じ質問をします。
「今のポジションに至るに一番何が影響しているか?」
必ず返ってくることは、「上司が背中を押してくれた」という言葉です。
制度やインフラを整えること、女性の意識を変えることも必要ですが、キャリアの扉を開けてくれる「イクボス」を育てることがとても大切だと考えます。
イクボスを育てるポイントとして、トレンドを作るには、女性に火をつけることが欠かせません。そのようなマーケットや環境があることをロジックに基づき説明をしていくことです。例えば、商品開発一つにしても、女性の視点が商品にフィードバックされていることが必要であること。なぜならば、消費購買の意思決定は全体の7割が女性が行います。
あとは、やはり労働力の確保です。女性・外国人・シニアの活躍はいずれも避けられません。
しかしながら、一番に着手しやすいのは女性の活躍推進ではないでしょうか。
ダイバシティーを推進している会社は、業績が良い、株価が高いというデータが出てきています。
それも参考データとして示していくことで納得性の高いものとなることでしょう。
ーー イクボス上司と女性の関係構築もキャリアに大きく影響してくるように感じます。
はい、そうですね。
これまで見てきたエクゼクティブ女子は、「がむしゃらに働く時期」を皆さん経験しています。
特に今のエクゼクティブ女子は、雇用機会均等法が施行され、環境が現在と比較しても過酷だったと思います。その環境や状況の中で、先々を見るというよりは目の前にあることを本当に一生懸命おやりになられてきた人が多いように思います。
そんな姿を見た上司は、積極的にサポートしたくなるのでしょう。
自由に生きたいと思うなら、エグゼクティブを目指すべき。
ーーエクゼクティブを目指すにはどのような時間の使い方をするべきでしょう?
今はワーク・ライフ・バランスとかコンプライアンスが重視されていて、制度やルールが整っていて、それはよいことなのですが、そのために、かえってさまざまな制約を生み出しています。なにがなんでも残業ができない、時間が来たらオフィスの電気を強制的に消灯とか、持ち帰り残業も禁止とか。リクールトですら、いまではそんな感じです(笑)。しかし、そんな制約がある中でも、できることはたくさんあります。
目の前の仕事をとにかく一生懸命やること。それにプラスして、「自分の視界を広げるための時間の使い方」をすることをお勧めします。セミナー、ボランティア、他業界の交流会に参加したり、MBAや語学の勉強をしたりなど、自分のバリューを高めることに時間を費やしましょう。それが、40代50代になったときに、「やっててよかった」と必ず思うことができます。様々な機会に顔を出すことは、人脈形成にも役立ちます。
ーー エクゼクティブ女子になるために必要なことは?
「修羅場にあえて飛び込むこと」です。
逆境や壁をいかに作るかがポイントです。あえて、修羅場を作る。それには、常にチャレンジする精神が必要です。様々なチャレンジをすることで、逆境や壁が現れます。それを乗り越える術を色々考え、乗り越えたり乗り越えられなかったりを繰り返すことで、レジリエンス(何があっても折れない心)が身につきます。組織に身を置く方が簡単に作れる修羅場は、「部署異動」です。これまでと異なる業務や環境になるからです。部署異動が叶わない場合は、社内プロジェクトがあれば応募してみる、後輩や部下の育成担当になるなど、様々な修羅場が作れます。
ーー エクゼクティブ女子が他の男性エクゼクティブとうまくつきあうには、どうすればいいですか?
積極的にコミュニケーションをとることです。
インフォーマルな組織にも前向きに働きかけること。やはり、ダバコ部屋で仕事が進む、アフターファイブに人事が決まるなど現在の組織においてもいまでもあるのが現実です。それを嫌がらず、自分ができることを積極的に行いましょう。
あともう一つ、女性である私たちが知っておきたいこと。
「女性が苦手な男性エクゼクティブがいる」ということを理解しましょう。
今のエクゼクティブ男子は働く女性の生態を知らないわけです。
なぜならばエクゼクティブ男子の奥様は、専業主婦率が高いです。組織で働く女性がどんなことに興味関心を持っているか想像しにくいわけです。そのような男性と一緒に仕事をしている、という事実を女性も心得ておくと相互理解が深まりますね。
ーー 自由に生きるために、女性が目指すべき姿とはなんでしょう?
女性は比較的出世志向がなくて、管理職になりたくないという女性も多いと言われています。しかし、自由な生き方をしたければ、仕事の裁量権を持つエグゼクティブを女性も目指すべきです。
仕事の裁量を持つことは、意思決定者になるということです。
自分の価値観を実現できる働き方が選べるわけです。そうすると、より自由に生きることができると思います。自分の人生の意思決定者になりましょう。
ーー 最後に、エクゼクティブ女子へのエールを!
現在活躍しているエクゼクティブの方へ、ぜひ後世へ背中を見せてほしいです。かなりのご苦労をされて今のポジションにいらっしゃると思います。エクゼクティブになったときのメリットを次の世代に魅力として伝えることで、「私もエクゼクティブになりたい!」と思う女子を増やしてほしいです。
そして、これからエクゼクティブを目指す方、「ぜひ一歩を踏み出してください。」
今は突風が吹いています。チャンスがたくさんあります。怖がらず、チャンスをまずは掴みにいってください。