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新型コロナウィルスから身を守るために

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、WHOがパンデミック宣言したことでメディア報道は加熱し、結果として実態よりも不安が煽られる事態も拡がっています。感染や医療の情報を受け止めるリテラシー、そもそもの情報リテラシー能力をしっかりと身に着けることの重要性を強く感じます。『患者力』など多数の著作もある医療ジャーナリスト増田美加氏に勝恵子がインタビューしました。

  世界中に未知のウイルスの感染拡大が続いています。感染の拡大はもとより、経済的ダメージや精神的なダメージの怖さを感じますが、増田さんご自身はこの状況をどのように捉えていらっしゃいますか?

増田  国内外の連日の報道もあり過剰に怖がっている方が増えていると感じますが、このような時こそ冷静に正しい情報を入手してほしいと思います。感染が広がることは止められませんが、感染しても8割は軽症だということ、高齢者や基礎疾患がある方への感染を防ぎ、感染拡大のピークをなだらかにしていくことが必要なのです。それは、医療崩壊を起こさないため。誰でも検査するべきではないと思っています。重症化するリスクのある方を優先に検査できる体制を整えておくこと。手洗いなど予防はきちんとして、自分自身の体調管理をして冷静な行動を心がけるべきではないでしょうか。

  冷静に行動するには、正しい情報を得る必要がありますが、在宅の高齢者は主にテレビの報道、また10代から20代はインターネットやSNSで溢れる情報をどのように受け止めているのか気になります。不安感が増したり、デマ、また詐欺まがいのことも起きています。

増田  私が主な情報源にしているのは、厚労省のホームページです。
新着情報をメールで受診もできますし、SNSの発信もあります。個人が見るところ、学校関係者が見るところなど、細分化されていて、情報を探していかなくてはなりませんが、メディア等の情報を信じる前にまずはこちらを見て知識を得て欲しいと思います。私はテレビ番組を見ていないわけではありませんが、沢山の専門家が沢山のことを話しています。現役の感染症の専門家は、その多くがテレビ番組に出演する時間はありません。多くが元感染症専門家です。情報が古い可能性もあるし、個人の見解に偏りすぎている場合もある。それは、見極めなくてはなりません。

  メディアで発信されたものが正しいとすぐに信じる、正しいと感じなくとも、不安の刷り込みのような状態は起きているのではないでしょうか。個人で情報を見極めていくのは非常に難しいです。

増田 発信するメディア側の医療情報リテラシーを、これを機に高めていく必要性をとても感じます。感染症は感染症の専門家、医療従事者も専門分野以外の事は聞かれても困りますから、この分野はどの専門家に聞けば良いのか、ということを含めて医療情報チームを各メディアは作って欲しい。常に医療番組を担当しているわけではないでしょうから、専門家の人選含めて大変だろうなと想像してしまいます。

  かつてテレビ番組側にいた人間としては耳の痛い話ですが、毎日の生放送を製作する側は情報の精査と時間と戦いながら番組を送り出しています。影響力の大きさを忘れることなく、これを機にメディア側のヘルスリテラシーを高める方へ展開して欲しいという考えには同意します。

増田  CDC(アメリカ疾病管理予防センター)は、感染症対策の総合研究所ですが、日本は2009年の新型インフルエンザ流行の時に残念ながら作られませんでした。今回の新型コロナウイルス危機で、政府は日本のCDCを作るべきですし、メディアも不必要に不安を煽らない情報を発信できる体制を整えてほしいです。私が参画している、ウィミンズヘルスリテラシー協会でも、医療情報を発信するメディア関係者のヘルスリテラシーを高めるための勉強会を医師とともに開催しています。

  そして、情報の受け手側のリテラシーを高めること。この能力は一日二日では養えませんよね。私は長年メディアで仕事をしてきて、Aさんが見た事実とBさんが見た事実はそれぞれ主観が入って見ているから、どの立場で伝えるかで事実は違ってしまう、ということを嫌という程体感してきて、考えてきました。だから、この事実はどうなんだろう?と疑うくせがあります。しかし、そうやって受け止める事のほうが特殊かもしれない。危機が起きた時こそ、色々な情報が飛び交い、とかくすぐに飛びついてしまいがちです。今回の新型コロナリスクでも店頭からマスクやトイレットペーパーの不足が各国で起きていますし、ネットメディアやSNSでさらに拡散のスピードが早くなっています。

増田  常に疑問をもって知識と照らし合わせて情報を精査していくことは今後ますます必要なことになると思います。ネットでの情報も溢れていますが、誰か知り合いが呟いたことをなぜ簡単に信じて、拡散してしまうのでしょうか。私はSNSで他から発信された情報の拡散はほとんどしません。今回の感染症は未知のウイルスで感染症の専門医の現場でもどんどん情報が更新されていきます。その正しい情報を得ないといけません。正しい情報の見極めには知的作業を繰り返すしかありませんが、正しい知識は身を守る術になります。病気や他の医療情報についても同じです。
「がん」についても、いかがわしい情報に惑わされないで見極めないと、自分の命を守ることができません。「がん」の場合は、「国立がん研究センター がん情報サービス」が、一般の方がアクセスしやすい正しい情報です。どこかの誰かの知り合いの発言よりも、多くのデータが集約され研究された情報を得て欲しいと思います。


  発信側も受け手側もリテラシーを高めていくには、どのような工夫ができるでしょうか?

増田  ひとつは、学校教育にもあると思います。医療や健康の分野についても、正しい性教育や体のどこに臓器がありどんな機能を果たしているとか、性差についても、きちんと子供の年齢に応じて、専門家が教育の現場に入り、子供達に学習の機会を増やしていくべきではないでしょうか。まずは正しい知識を広くもつこと、今の教育には健康学習が圧倒的に足りないと思います。先ほどお伝えした、厚労省のホームページには健康情報も沢山掲載されています。教育の機会でも使って欲しいなと思います。

  細菌とウイルスの違いすら知らない大人もたくさんいますよね。体の臓器についても、健康とつながることなのに、知識としては「生物」の分野で学習したことから発展していない気がします。
ただ、今の小学生の教科書には、情報リテラシーの事は掲載されていますし、学びの機会はあります。これだけメディアが多様化して、子供達も早くから多くの情報に囲まれて成長していきます。SNSとの付き合い方も非常に重要。使いながらリテラシーを習得していく機会はたくさんあると思います。

◎医師とのコミュニケーションの取りかた

 

  がんのような重大な疾患でなくとも、私たちは日頃から患者として医師と向き合う機会があるわけですが、医療の情報は専門的で細分化されているなかで、ある程度ベースとなる知識が必要だと感じます。そうしなければ、病院で受診したとき医師に質問もできない。自分の思い込みや古い感覚にとらわれない身体や医療に関する情報センサーをもつべきだと私は思いますが、この点はどのようにお考えですか?

増田  医療情報らしいことは溢れているのに、正しい健康知識を持ち合わせていないと感じるケースをよく見かけます。知識がないと危ない過信にもつながります。自分の身体のどこがどのように変と感じるのか、それはいつからなのか、病院に行く時には自分自身の状態と、医師に聞きたいことを考えてメモに書いてから行くべきです。そして、医師に、書いたメモを見せてください。医師も書かれたものを渡されると、この人はここまで聞きたいのか、と安心すると思います。

  メモを見せてよいのですね。医師を安心させることが必要なんですね。

増田  医師も人間ですから、この患者さんは何をどこまで聞きたいんだろうとわからなくなるとよいコミュニケーションをとることができません。

  個人的な話ですが、私は子供の入院の時に担当医に質問ばかりしてしまい、「母親にやや不安傾向がある」と担当医から引き継がれたことがあります。質問しすぎてもよくないのですか?

増田  個々のケースによりますが、1回の診察で最大5問まででしょうか。逆に、5個の質問をすると仮定して、私は医師に何を尋ねたいのかと優先順位を考えるとよいのです。あれもこれも質問しようとしても内容が重なっていることもありますし、保険診療内で的確なコミュニケーションを取るには5問までだと思います。
治療が長くかかる病気の場合、医師とよい関係と信頼関係を作るには患者力も必要なのです。医師側もコミュニケーション能力を高める必要がありますが、よい医療を受けるためにも、患者側の姿勢は大切ですし、医師からどれだけ情報を引き出せるかも、患者次第のところがあります。よい関係が築ければ、期待する診療がより受けられます。医師は病気と闘うパートナーであり第一の味方なんです。

  医師との付き合い方でいうと、私はかかりつけの婦人科クリニック、内科、耳鼻科、眼科、胃腸の状態が悪い時は胃腸内科、歯科、と沢山のクリニックを使い分けています。少し、多すぎるのかなと思っているのですが、クリニックに行っていると医師と話すことにも慣れてきます。

増田  40代50代以降になると、女性ならば更年期でかなり不安定な症状が起きますから、せめてかかりつけの婦人科クリニックは持って欲しいです。私も勝さんくらいクリニックに行きますよ。特殊ではありません。おっしゃるように医師を見る眼もできてきますしね。

  女性たちは意外とかかりつけの婦人科に行っていないんです。どこに行けば良いかわからない、なんとなく抵抗があって、という声も沢山です。結婚をし家庭を持ち仕事もし、多忙すぎて自分の体のことは後回しの女性が本当に多いです。

増田  何もなくても年に一度は婦人科の検査を受けてほしいですし、月経が始まってからの女性は何かしらの不調とともに常に生活していきます。更年期の症状も婦人科に相談すれば早くから治療ができる。また、10代の女子もお母様と一緒に何かあれば受診をしてほしいと思います。内診を受けるのではなくて、婦人科医の話を聞くだけでも。それには、母親たちが婦人科を受診する習慣があるといいですよね。子宮頸がんの検査は20歳から必要ですし、月経の乱れなども低用量ピルなど年齢に応じて対処できます。我慢しないで医師とうまく付き合うべきです。ヘルスリテラシーも医師との付き合いの中で自然ろ身についていくのではないでしょうか。
(取材・文=勝恵子/取材協力=ボルボスタジオ青山)
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増田美加 Masuda Mika/女性医療ジャーナリスト

エビデンスに基づいた健康情報&患者視点に立った医療情報について執筆、講演を行う。女性誌『婦人画報』『GINGER』『My Age』ほか、女性WEBマガジン『MY LOHAS』『Web GINGER』『女子カレLOVABLE』『@cosme  A-beauty』ほかでヘルスケアや女性医療の連載を行う。テレビ、ラジオにも出演。乳がんサバイバーでもあり、がんやがん検診の啓発活動を行う。著書に『医者に手抜きされて死なないための 患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)、『後悔しない歯科矯正』(小学館新書)ほか多数。
NPO法人「乳がん画像診断ネットワーク(BCIN)」副理事長。NPO法人「女性医療ネットワーク」理事。「マンマチアー委員会~乳房の健康を応援する会」主宰。NPO法人「みんなの漢方R」理事長。「日本女性ウェルビーイング学会」副代表。一般社団法人「ウイメンズヘルスリテラシー協会」理事。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会会員。

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