痴漢を疑われた男性の死亡事故
電車の中で痴漢行為をしたと疑われた男性が、線路に飛び降りて逃走する事件が頻発している。テレビなどでは非常に危険な行為だと注意を促していたが、5月15日にはついに死者が出た。
その他、痴漢を疑われ冤罪を主張して自殺したケースなど、ここ1ヶ月ほどの間だけで痴漢関連での死者は三名にものぼる。
しかし、線路を逃走して電車にはねられて死亡したケースはこれが初めてではない。
過去には死亡事故も起きている。2001年にJR御茶ノ水駅(千代田区)で痴漢をとがめられた男が線路を逃走中に、近くを流れる神田川に転がり落ちて死亡した。03年にはJR上野駅(台東区)で痴漢の疑いで取り押さえられた男が線路に飛び降り、電車にはねられて死亡した。
https://mainichi.jp/articles/20170418/k00/00e/040/188000c
なぜ、痴漢を疑われた男性が死の危険を冒してまで逃走するかというと、それは「痴漢で捕まったら人生が終わる」というイメージが強いからだ。
痴漢で逮捕されたら何ヶ月も警察に拘留される。そして、まず100%有罪になる。会社もクビになるし、妻や親族からも見捨てられる。
そのようなイメージがあるから、痴漢を疑われた男性は逃げる。
実際にはあまり重くない痴漢犯罪
しかし、実際には痴漢犯罪は重い罪ではない。
もちろん女性からすればとんでもない犯罪だし、個人的には僕も許されざる犯罪だとは思うが、刑事司法的にはそう重い罪ではないというのが実態だ。下着の中に手を入れるなどの悪質な行為は別だが、着衣の上からお尻を触るなどの軽微な行為ならたいした罪にはならない。もちろん、被害女性からすれば、お尻を触られることだけでもとんでもなく悪質な行為だが、刑事司法的にはあまり悪質だとは捉えられない。
駅員室に連れて行かれて警察官の取り調べを受けても、罪を認めてしまえば数時間で釈放されるし、その後は不起訴処分になるか、罰金刑で済む場合も多い。数時間の拘束と言っても、実際には身元引受人が到着するまでの間待っているだけで、たいして厳しい尋問があるわけでもない。また、痴漢で逮捕された事実も、家族や職場に知られることもない。
実際、僕も以前、知人の男性が痴漢行為で逮捕された時に、警察から電話がかかってきて身元引受人として「犯人」を引き取りに行ったことがある。その知人は痴漢行為はしていないと主張していたが、無罪主張すると何ヶ月も拘束される。しかし、たとえ冤罪でも罪を認めてしまえば数時間で解放される。なので、罪を認めてしまったというわけなのだが、僕が迎えに行ったらすぐに解放されたし、その後の仕事にもまったく影響しなかった。
というわけで、従来は痴漢で捕まっても(たとえ冤罪であっても)罪を認めてしまう方が合理的だと考えられていた。
痴漢を疑われたらなぜ逃げるのか?
しかし、痴漢を疑われて逃げて死亡する事件が起きたのは最近の事だけではない。昔から、逃げるヤツはいたということだ。その中には本当にやっていない、冤罪で犯罪者になりたくないという男性もいただろう。
実際、満員電車の中では、男性はいつでも痴漢犯罪者になる可能性がある。僕も一度、疑われたことがある。
まだ学生の頃だったが、満員電車で吊革につかまって立っていた。僕の目の前には20代半ばくらいのお姉さんが向こうを向いて立っていた。つまり、その女性の後ろに僕が立っていたことになるのだが、なにしろ満員電車の中だったので身体はかなり密着した状態だった。しばらくその体勢で乗っていたのだが、電車が揺れて身体がさらに密着してしまった。するとそのお姉さんが、もの凄い形相で僕の方を振り返った。たぶん、お尻に股間を押しつけられたと感じたのだろう。もちろん濡れ衣だ。
その時のお姉さんはにらみつけてきただけなので何ごともなかったが、「こいつ、痴漢よ!」などと騒がれたら僕も駅員室に連れて行かれた可能性はある。その一件以来数十年。僕は満員電車ではとにかく痴漢だと疑われないような体勢をとるように心がけているが、つまりは男性は誰でも痴漢冤罪に巻き込まれる危険性があるということだ。
ところで、世の中に「痴漢冤罪」なる言葉が知られるようになったのは、2007年に公開された映画「それでもボクはやってない」が話題になってからのことだろう。痴漢を疑われたが否認し、数ヶ月間も警察に拘留され、会社を首になり、それでも「ボクはやってない」と主張。家族や友人たちの支援の元、裁判を戦うという実話を元にした映画だ。
この映画の公開とほぼ同時に、主人公のモデルとなった男性に痴漢犯罪としては異例の1年6ヶ月の実刑判決が出たことで、マスコミでも話題になった。男性は最高裁まで争っているが、有罪が確定している。
この件がきっかけとなって、痴漢冤罪は恐ろしいというイメージが定着したと思う。
また、一部の弁護士やマスコミなどが「痴漢を疑われたら逃げろ。駅員室まで行ったら終わりだ」というメッセージを社会に発信してしまった。それがネットでも広まって、逃げるヤツが増えてきたのかもしれない。
最近の「線路逃走事件」報道に際して、弁護士の中には「最近の痴漢事件では、ちゃんと裁判官も審議するから冤罪事件は減っている」という人もいるが、ホントにその言葉を信用して良いのか分からない。痴漢冤罪をはらすのは、たいへんな労力とお金の負担がかかるのは変わっていないように思える。
また、世の中には冤罪を晴らすことがほぼ不可能なケースもある。そして、そのことを悪用する女子高生たちもいるのだ。
痴漢冤罪恐喝を仕掛ける女子高生グループ
満員電車で男性をターゲットにして痴漢冤罪を仕掛け、金銭を脅し取る女子高生グループがいた。もう20年くらい前の話だが、僕はそのような女子高生グループから直接、話を聞いている。
彼女たちの手口はこうだ。
まず、グループの中で、おとなしそうな雰囲気の女子高生が被害者役をやる。当時はギャル全盛の時代で、ガングロなる女子高生も多かった時代で、女子高生と言えば茶髪でルーズ・ソックスというイメージだったが、被害者役の女子高生は黒髪。そして名門校の制服。いかにも真面目で清楚な女子高生のイメージだ。
その被害者役が、朝の満員電車の中でターゲットとなる男性の前にさりげなく立つ。ターゲットになるのは、いかにも真面目そうで一流企業に勤めている感じの中年男性だ。そして、頃合いを見て被害者役の女子高生が嘘泣きを始めたりする。すると、周囲にいた仲間の女子高生が男性の腕をつかみ「あんた、なにしてんのよ!」とか騒ぎ出す。そして、次の駅で男性を降ろす。
電車から降ろされた男性は駅のプラットフォームで数人の女子高生に取り囲まれる。最初に要求されるのは名刺だ。その名刺で会社を確認した後、女子高生たちは交渉に入る。その場で金を払えば許す。払わなければ、警察に通報すると脅す。
その女子高生たちは全員が違う学校で、つまり制服がバラバラなので全員がグルだとは男性にも分からない。しかも、その女子高生たちは全員が名門校の生徒だ。もし、金を出すことを拒否して駅員や警察が来ても、中年オヤジの言うことと、「たまたま痴漢行為を発見した」(という設定の)名門女子校の制服を着た女の子たちの言うことのどちらを信じるかは明白だ。大人は名門校の生徒を信用する。ましてや、その一派がグルだとは誰も思わない。だから、女子高生たちは駅員も警察も怖くはない。彼らを恐れるのは中年オヤジの方だ。
もちろん、金品の要求も下手にやると恐喝事件になる。なので、彼女たちにには顧問弁護士がついていて、恐喝にならないよう、しっかりと指導を受けている。「私たちの愛読書は、六法全書なんですよ」と自慢げに語っていたのが印象的だった。
痴漢冤罪という言葉さえ世の中に存在していない時代から、このような恐喝グループはいた。いまでも存在しているかどうかは分からない。しかし、女性が男性を陥れることは簡単だ。痴漢冤罪だけでなく、強姦未遂事件をしかけることも容易だ。男性としての防御策は、ともかく「李下に冠を正さず」しかないのは、今も昔も変わらない。男性諸君はくれぐれもご用心を。