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「トランプ勝利」を6月の時点で予測できていた理由

「ヒラリー有利」の報道の中で、トランプ勝利を予測。

トランプが勝利した。

女性支援団体である「ガールパワー」のメンバーとしては、アメリカ初の女性大統領の誕生に期待もしていたが、そのいっぽうで、トランプが勝つだろうとも予測していた。

これは後出しジャンケンではない。今年の6月に、ダイヤモンド・オンライン(DOL)の連載記事でちゃんと書いている。

英EU離脱、トランプ現象に見る「大きな物語」なき参院選のゆくえ

簡単に言えば、イギリスがEU離脱を国民投票で決定したブレグジットと、トランプ現象は同根で、だからトランプは勝つという記事だ。

ほとんどのメディアがヒラリー勝利を予測し、世論調査でもずっとヒラリーがリードしている中での予測だったが、結果はご存じの通り。

というわけで、手前味噌で恐縮だが、トランプ勝利を予測できた理由をお伝えしたい。それは、日々のビジネスにも役立つスキルであり、考え方だと思うからだ。

視座と視野を間違えると、判断も間違える。

ここからは主に日本のメディア報道に関して書くが、メディアに掲載された多くの(ヒラリーが勝つという)論考、考察は、アメリカのことしかみていなかった。

ほとんどの場合、「アメリカはこうだから」「アメリカ人はこうだから」という視点での論考だ。

アメリカの大統領選だから、アメリカのことを見るのは当たり前だと思うかもしれないがそうではない。

今回、起こったことは前述の通り、ブレグジットと同根だ。

つまり、世界的に起きている大きなトレンドの中で、今回の大統領選を眺めれば、違った風景が見えてきたはずなのだ。

今、世界で起きていることはなにか? それは「中間層の没落」である。

これは、たとえば英「The Economist」などの雑誌でも、2000年代中盤くらいから何度も大きく取り上げられている問題だ。先進国最大の社会課題だと言える。

先進国で中間層が没落している原因はいろいろあるが、大きく2つある。

ひとつは「脱工業化社会の到来」だ。

基本的に先進国は、第二次産業から第三次産業に移行する。

第二次産業で働く人間のほとんどは工場労働者で、彼らの収入はほぼ均一だ。業界や会社によって多少の差はあるが、全体的に見ればほとんど差が無い。

しかし、第三次産業には、高額な給料を取るファンド・マネージャーやコンサルから、飲食チェーンなどの非正規雇用の店員までいる。中間層は、たとえばコンビニや飲食のチェーン店、FC店のエリア・マネージャーなど少数派だ。このような産業構造が経済格差を生む。

もうひとつは、言わずと知れた「グローバル化」だ。

ご存じのように、グロバール化は工場の海外移転を促進し、工場労働者の仕事を奪う。つまり、中間層の職を奪う。

このようなことが先進国ではどこでも起きていて、没落する中間層は怒っている。

だから、ブレグジットのような「まさか」が起きたわけだが、社会的な基本事情はアメリカも同じなので、同じような「まさか」が大統領選で起きても不思議ではない。

この、「中間層の反乱」を甘く見ない方がいいというのが、DOLで僕が書いたことの主要テーマだが、日本のメディアでこのような論考はあまり見たことがない。

理由は、大統領選は政治の話なので政治部の記者が書く。しかも、日本のメディア人は、他の業界に比べても極めてドメスティックなので、政治部の人間がグローバルな経済構造の変化によって起きていることを、十分に勉強しているとは思えない。たとえば前述の「The Economist」は、ウォール街の伝説的なファンド・マネージャーが週末に隅から隅まで読んでいるような雑誌だが、日本のメディアの政治部の記者で、そのよな人間はまずいないはずだ。(経済部の人間でもそうだと思う)

「グローバル化によって経済格差が拡大している」という話は知っているだろうが、それが欧米先進国で、どのような空気感になっているか?については分かっていないだろう。

分かってないことは考えようがないので、中間層の反乱についても理解が浅くなる。

日本で言えば、格差社会の報道は社会部の仕事で、やはり政治部の人間には頭では分かっていても、皮膚感覚としてはwか合っていないと思う。アメリカのことならなおさらだ。

これが、トランプ勝利を予測できなかった原因のひとつだと思う。

ビジネス・パーソンに伝えたいことは、自分の業界のことだけ知っていては、トレンドの大きな変化に気がつかず、大きなチャンスを逃すだけでなく、企業戦略も間違うということだ。

大統領選の予測を間違えてもガッカリするだけだが、企業戦略を間違えると会社は潰れる。

トヨタの最大のライバルは、ニッサンやVWではなく、AppleやGoogleになる。そんな時代に生きているビジネス・パーソンは、今まで以上に多角的で広範な視野が必要になるということだ。

現場を知らずしてデータだけを見ることの間違い。

マーケティングの仕事を長年やっていると、調査データと実際がまったく違うケースにあたることも多い。

たとえば、新商品の好感度調査を行ったとして、調査では大多数が「好き♪」と回答したのに、実際に売り出してみればさっぱり売れないというケースも多い。

調査のやり方が間違っていたとか、スキルが低いとかの理由もあるが、多くの場合、間違える理由は「調査データだけ」を見るからだ。データを見るときに、データ(の数字)そのものは、実はほとんど意味が無い。

重要なのは数字ではなく、「なぜ、そのような数字が出たのか?」という、その理由だ。

この、理由が明確で無い場合に、分析は間違える。

では、その数字を読む力、スキルはどうすれば養えるのか?

これは、現場を知るしかない。

いわゆる肌感覚、空気感を知るということだ。

人間というものは、経済学が前提としているような「合理的」なものではないし、基本的に論理よりも感情で動く。そして、このような非合理的、感情的なものは数字にしにくい。

ただ、人間というものは優れたセンサーの塊なので、現場感覚を養うことで、優れた分析能力・スキルを習得できる。

ビジネスの現場でも、データと実際が違うということを察知できるようになる。そのような違和感を感じることができれば、データが間違っているのか、自分の感覚が間違っているのかも検証できるが、違和感を感じなければ間違いに気づくこともできない。

実は、ビジネス現場における皮膚感覚の話は奥が深くて、これだけの説明では不十分なのだが、長くなりすぎるので今回は要点だけを述べておくが、とにかく現場に出てみなければ分からないことも多いのだ。

今回の大統領選では、「トランプは移民排斥を訴えているから、移民からの反発を喰らい、彼らはヒラリーを支持するだろう」という言説も多かった。

しかし、海外メディアのレポートでは違っていた。意外にも中南米からの移民がトランプを支持していたのだ。

移民排斥を訴えるトランプをなぜ、移民が支持するのか?

一聴すると矛盾しているように思えるが、実は投票権のある移民は「正規移民」であり、市民権を得た移民たちだ。そのような人たちにとっては、不法移民を取り締まり、排斥することは自分たちの既得権益を守ることになる。だからトランプを支持した。(トランプが排斥を主張している不法移民は選挙権を持たない)

このようなことは、現場を見なければわかりにくい。だから、アメリカのメディアは報じることができたが、日本のメディアは遅れた。

大統領選直前にはテレビ各局でも特番を組んだり、ニュース番組の中で特集を行っていたが、スタジオのコメンテーターと、現地で取材しているレポーターたちの空気感がまったく違っていて興味深かった。

スタジオでは「ヒラリー有利」と分析する人が多い中で、現地を実際に取材しているレポーターは「なんとも言えない」という感想しか言えなかった。たぶん、トランプ有利だと感じていたが、さすがにそれを電波に乗せて言う勇気は持てなかったのだろう。

木村太郎さんはトランプ優勢と言っていたと記憶しているが、これはやはり1万キロを越える取材旅行を敢行して、全米の有権者の意見を直接聞き、多くの街中の空気感を肌で感じてきたから言えたことなのだと思う。だから、トランプ勝利を予測できたのではないかと思う。

池上彰さんも大統領選前にアメリカを取材し、

「日本にいると当然ヒラリーさんと言う雰囲気だったが、現地だとそういう感覚はなかった」

http://news.livedoor.com/article/detail/12258803/

と述べている。

では、アメリカの有権者に直接、取材が可能な米メディアが予測を外したのはなぜか?

人はバイアスで間違える。

それは、やはり人間がもつバイアスのせいだ。

アメリカのメディアは基本的にリベラル。 なのでトランプには勝たせたくない。そのような心情、感情がバイアスとなって、事実が見えなくなる場合も多い。中立公正をうたうメディアも、実はバイアスがかかり、間違った報道をすることがあるということは、いわゆる「従軍慰安婦問題」における朝日新聞の長年の報道を見てもご理解いただけると思う。

データにしても現場にしても、自分のバイアスを極力排除して見ることが大事だ。こういうことは、マーケティングの仕事をしていれば、自然と(しかし徹底的に)鍛えられるが、実はほとんどビジネス・パーソンはバイアスの呪詛から逃れられていない。だから、業界の常識や自分の半径5メートルの人間関係が、世の中のすべてだと勘違いして戦略を間違える。

ただし、バイアスを持たない人間はいないし、完全に排除することも難しい。

重要なのは、自分のバイアスを知ることだ。たとえば僕の場合、ほんとうに好きな音楽、いいと思ったアーティストは、そこそこ売れるが、けっしてオリコン1位にはなれない。売れるアーティストや楽曲はだいたい分かるが、その曲やアーティストを好きになるかというと話は別だ。

つまり、自分のバイアスや感覚を客観視して、それが社会の中で、生活者の中でどのようなポジショニングなのかということを把握しておくことが必要だ。

それができるようになれば、実は現場を見なくても、データやメディア報道だけでもある程度は判断できるようになる。

アメリカを実際に取材しなくても、僕がトランプ勝利を予測できたのは、長年にわたってマーケティングの仕事で得たスキルのおかげだと思っている。

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竹井善昭

CSRコンサルタント、マーケティング・コンサルタント、メディア・プロデューサー。一般社団法人日本女子力推進事業団(ガール・パワー)プロデューサー。

ダイヤモンド・オンラインにて「社会貢献でメシを食うNEXT」連載中。
http://diamond.jp/category/s-social_consumer
◇著書◇「社会貢献でメシを食う」「ジャパニーズ・スピリッツの開国力」(共にダイヤモンド社)。 ◇翻訳書◇「最高の自分が見つかる授業」(Dr.ジョン・ディマティーニ著、フォレスト出版刊)

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