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電通女性社員の自殺とハイスペック女子問題

電通女性社員の自殺は単なる過労死ではない?

働き女子のみなさんならご存じだと思うが、電通の入社1年目の新入社員(当時)高橋まつりさんが、クリスマスの朝に寮の4階から飛び降りて自殺した事件。自殺から約9ヶ月後の今年9月30日、東京都の三田労働基準監督署がまつりさんの自殺を労災認定したことで、マスコミが大きく報道。ネットでも大きな話題になった。
しかし、当初はメディアの報道もネットの批判も、ほとんどが「残業が100時間を超えていた」ことによる過労死の文脈で語るのみ。今回、まつりさんがtwitterで数多くのツイートを残していたことで、自殺までになにがあり、高橋さんが何を考えていたか、ある程度はわかるのだが、そのツイートから「パワハラ問題」を指摘するメディア、ネット言論も増えてきたが、それも一般的なパワハラ問題として言及するのみだ。しかし、これを「単なる労災死、パワハラ問題としてだけ」で捉えると、問題の本質が見えなくなる。この事件の本質的菜問題。それは、女性活躍推進の最大の「見えない壁」=ハイスペック女子問題なのである。

そう考えた僕は、ダイヤモンド・オンライン(以下、DOL)で連載している「社会貢献でメシを食うNEXT」で、そのことを書いた。

「電通女性社員自殺」を単なる過労死にすべきでない理由

この記事は特に女性たちから大きな反響を呼んだ。

記事がアップされたのは10月18日火曜日の午前6時頃。当日のピックアップ記事に選ばれなかったこともあり、当初はアクセスも悪く、「1時間ランキング」(直近1時間のアクセス・ランキング)」でも、かろうじて10位に入る程度。それが、昼頃からぐんぐん順位を上げ、夕方頃にはトップとなった。記事に対する「いいね!」の数、シェアされた数もアクセスに比例して夕方くらいから伸び始めた。翌水曜日に公開された「昨日ランキング」(前日のアクセス数ランキング)」では3位。Facebookランキングでもその程度の順位だったと思う。まずまずのヒットとなったのだが、そこから異変が起きた。

ネット・メディアの記事は足が速い。毎日、何十本も配信される中で、ランキングに入っても、たいていは1日か、せいぜい2日くらいでランキングから消える。初速勝負なのだ。

しかし、この記事は2日目になってアクセス、「いいね!」数をさらに伸ばし、結局3日間、ランキング上位入り。Facebookラインキングは1位。4日目にアクセス・ランキングから落ちたものの、「いいね!」はさらに数字を伸ばし、日曜日にはまたアクセス・ランキング上位に返り咲いた。ウェブ・メディアでは珍しい動きだが、これはつまり、この記事がSNSで拡散され、普段はDOLの読者ではない人たちが五月雨式にアクセスしてきたということだ。

10月25日夕方現在、この記事の「いいね!」数は4000を超えている。これは、DOLの記事としてはかなり多い方だが、おそらく「いいね!」してくれた人の大半は女性ではないかと推測される。

理由は、まずこの記事が「男性批判」の記事であること。また、今回は友人・知人から見知らぬ人までさまざまな方からメッセージやメールをいただいたが、そのほぼすべてが女性からだったからだ。とにかく、女性からの共感がすごかった。それも年代を問わずだ。内容については記事を読んでいただきたいが、簡単に言えば、今の日本の大企業の中でハイスペック女子がいかに生きづらいかについて書いている。

このハイスペック女子問題については、なんどかDOLでも書いているが、その都度、女性たちから大きな反響をいただいている。

「ハイスペック女子」はなぜすぐに会社を辞めてしまうのか?
「ハイスペックな美女」はなぜモテないのか?

始めてこの言葉に接した方のために簡単に説明すると、ハイスペック女子とは高学歴・高キャリアの働き女子のことだ。ハイスペック女子というと、美人であうことも条件だとイメージする人も多いが、それは実際にハイスペック女子に美人が多いからだ。

女性活躍推進最大の「見えない壁」、ハイスペック女子問題とはなにか?

ハイスペック女子を語る中で、実は高学歴・高キャリアに明確な定義はできていない。早慶・東大やハーバードやオックスブリッジなど海外一流大学卒は間違いなく高学歴だが、マーチ校レベルをどうするかは議論が分かれる。高キャリアというのは、概ね医者や弁護士などの難易度の高い資格を持つキャリア女子、および大企業の総合職あるいは研究職女子である。起業女子は微妙。既に事業を成功させている場合はハイスペックだが、まだスタートアップの段階では微妙ということだ。ベンチャー企業でバリバリ働く高学歴女子も、高キャリアと言っていいかと思う。

そして、ハイスペック女子問題というのは、このようなハイスペック女子たちが、男性たちがいまだに抱えるジェンダー・バイアスのために、仕事の場でもプライベートでも生きづらいという問題である。

その典型的な問題が、ハイスペック女子はモテないという問題だ。ハイスペックで美女だと、さらにモテなくなる。なぜモテないかというと、男性はいまだに自分より高学歴、高キャリアの女性を敬遠する傾向があるからだ。昔から男が結婚相手に求める条件は「三低」=「低学歴、低収入、低身長」と言われてきたが、いまだにその傾向があるということだ。実際、20代後半ともなれば結婚する人間も増えるが、大手企業では「パン職(一般職)の女の子ばかりが結婚して、総合職女子はどんどん売れ残っていく」とハイスペック女子は嘆く。社内恋愛・社内結婚もハイスペック男子のお相手は基本的に一般職女子だという。そして、ハイスペック美人に言い寄ってくるのは、40代以上の自信過剰なオヤジばかり。もちろん、ほとんどの場合が既婚者だ。

というわけで、実は今どきのハイスペック女子は結婚願望が強いが、なかなか結婚相手がみつからない。近年は女性活躍推進ということで、産休・育休制度も充実してきたし、政府も地方自治体も保育所問題に真剣に取り組んでいる。しかし、ハイスペック女子からは「モテなきゃ結婚できないし、結婚できないと子どもが産めない。いくら産休、育休制度が充実して意味がない」と恨み節というか、嘆きの声が聞こえる。

産休も育休も、本来はワーク志向の強いハイスペック女子に活用してもらうためのものであるはずだが、実際に活用できるのはライフ志向の強い一般職女子ばかりで、ハイスペック女子は活用できないという矛盾がある。

これが、ハイスペック女子問題の典型的な例だ。このような問題は見えにくい。男性にはさらに見えにくく、部長や役員のオヤジにはまったく見えていない。

そして、このハイスペック女子に対するジェンダー・バイアスは、彼女たちのモテの問題、結婚や出産、育児の問題だけでなく、もっと仕事そのものに関わる問題を生む。

そもそも、男の嫉妬は女性以上にたちが悪い。もし、マーチ校出身の課長の下に、早慶出身の若手女子が配属されたら? 東大卒女子が配属されたら、京大卒の上司はどう感じるか? 長い長い人類の歴史の中で、ずっと女性を自分たちより下位に置いてきた男性にとって、学歴という客観的な評価基準で負けてしまえば、男性はどうすればいいのか? どこかで力の差を見せつけなければならないプレッシャーに男性上司も苛まれる。そのことが歪みを生む。

組織の中で、男は自分の力を誇示することで、自分のポジションを守ろうとする。社内の飲み会などで、若手社員に裸踊りをさせるのは、男性上司が組織の中での力の差を見せつけるためであり、組織のヒエラルキーを守るためだ。それと同じメカニズムがハイスペック女子に対しても働く。
一般職女子に対しては「女の子」とか言って、可愛がったりちやほやする男性も、総合職女子にはそのような態度は取らない。パン職女子はライバルではないが、総合職女子は明白なライバルであり、脅威であるからだ。

もちろん、さすがに若手女子社員に裸踊りは強要できないが(すればパワハラではなく犯罪行為だし)、男はどこかで女性の部下に力を誇示する必要がある。それが仕事の実力であればハイスペック女子も納得できるのだが、仕事の本質とは無関係なところ、たとえばランチにお供を強要するとかの力の誇示には反発もする。

そもそも、日本の大企業にはまだまだ不合理なことや時代錯誤がまかり通っている。上司が残業していると部下も帰宅できないみたいな不合理はさすがに無くなってきたが、それでも上司が時代の変化についていけないことを理由とした非合理、非生産的な事も多い。「雪が降っても自分の責任」という「教育方法」もそうだ。

男子はそのような非合理を我慢して飲み込むという文化があるが、女子にはない。もちろん、表面的にはハイスペック女子も企業の非合理な文化に我慢してつきあっているが、内心ではかなりストレスを感じている。

また、昔から女性は感情的で男性は論理的と言われているが、少なくともハイスペック女子に関しては、そのような評価は当てはまらない。オヤジ上司よりハイスペック女子のほうがはるかに論理的だったりするし、口げんかで女性に勝てる男性はいない。というわけで、仕事の議論でもハイスペック女子が男性上司を打ち負かすことも多い。しかし、上司と議論して勝つことは、けっして企業の中では評価の対象にはならない。かえって、男性上司から煙たがられる原因にもなる。下手すると、雑用仕事ばかり押しつけられる結果にもなる。

ハイスペック女子は四面楚歌。敵は、オヤジ上司だけではない。

また、ハイスペック女子にはオヤジ上司以外にも敵がいる。

昔から大企業ではお局様がいて、課長も部長もお局様には逆らえない、機嫌を取らなければ仕事にならにと恐れられてきた。しかし、お局様はパン職女子のボスである。つまり、総合職のハイスペック女子はお局様のラインにはないし、庇護も受けられない。ハイスペック女子は、オヤジ女子の理不尽さに苦しみ、お局様を頂点としたパン職女子にも気を遣う。まさに、前門の虎、後門の狼状態である。

つまり、社内では誰も守ってくれない、四面楚歌のなかで、東大卒だから、早慶卒だからという目で見られ、仕事の能力も女子力も問われる。それがハイスペック女子の置かれた立場だ。

大企業の優秀な女性社員が、30歳前後で辞めていくケースが多いが、その大きな(主要な)理由は、このようなハイスペック女子問題への無理解と、それゆえの放置だと思う。この問題を企業役員や人事はしっかりと把握しておかないと、ハイスペック女子たちは会社を辞めるか、スポイルされて無力化するか、最悪の場合は自殺する。それは本人たちにとっても悲劇だが、企業に取っても大きな損失だ。日本企業はハイスペック女子問題に真剣に取り組むべきだと思う。

(追記)
ガールパワーではこのハイスペック女子問題に取り組み、啓発活動を行っています。この問題に関するご相談やご意見、情報提供をぜひお寄せください。

メッセージはこちらのフォームから。

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竹井善昭

CSRコンサルタント、マーケティング・コンサルタント、メディア・プロデューサー。一般社団法人日本女子力推進事業団(ガール・パワー)プロデューサー。

ダイヤモンド・オンラインにて「社会貢献でメシを食うNEXT」連載中。
http://diamond.jp/category/s-social_consumer
◇著書◇「社会貢献でメシを食う」「ジャパニーズ・スピリッツの開国力」(共にダイヤモンド社)。 ◇翻訳書◇「最高の自分が見つかる授業」(Dr.ジョン・ディマティーニ著、フォレスト出版刊)

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