東京都議会議員選挙のPRキャラクターに橋本環奈
7月2日に迫る東京都議会議員選挙。小池都政の今後を占う重要な選挙として注目が集まっているが、東京都は選挙PRにも力を入れている。PRキャラクターに「1000年にひとりの美少女」橋本環奈を起用。「笑顔投票所」なるイベントも渋谷と新宿で開催という力の入れようだ。そのポスターがこちら。
カワイイ*・'(*゜▽゜*)’・*
のはいいのだが、ハッキリ言って意味不明だ。なぜに橋本環奈?と疑問に思う。
クリエイティブに意味を問われるのが世界標準
ことわっておくが、僕は橋本環奈のことは嫌いではない。「1000年にひとり」は盛りすぎだとは思うが、十分にかわいいとは思う。しかし、クリエイティブの話になると別だ。もちろん橋本環奈がクリエイティブではないと言っているワケでもない。そうではなくて「東京都議会の選挙PRキャラクターに橋本環奈を使う意味がまったく見えない」と言いたいのだ。
イメージ・キャラクターに意味などあるのか? とおもうかもしれないがそうではない。そう思う人はクリエイティブのことが何も分かってない人だ。
残念ながら日本という社会では、クリエイティブのことがあまり理解されていない。どれくらい理解されていないかというと、プロのクリエーターでさえ分かってない人が多い。
以前、とある仕事でポスターを作っていた。デザイナーからラフ・デザインがあがってきたので「この部分の意味は?」と尋ねたところ「そんな細かいところまで意味を問われたら、デザインの仕事なんかできませんよ!」と猛反発を喰らってしまった。
しかし、このデザイナーは間違っている。
イギリスのロンドンがパリと並んでアートの本場であることに異論がある人は少ないと思う。そのロンドンにあるスレイド・カレッジはロンドン大学に属するアート・カレッジで、イギリスのアート・カレッジのトップ校として君臨する。ということはヨーロッパでもトップ・クラスで、つまりは世界のトップ・アート・カレッジだ。入学することは非常に難しい。
どれくらい難しいかというと、普通は大学は高校を卒業してから入学するが、スレイド・カレッジは高校を出ただけでは入学できない。どこか他のアート・カレッジで、あるいはスレイド・カレッジの予備校的な学校で最低1年学んだ後でしか入学させてもらえない。
入学した後も厳しい。スレイド・カレッジはアーティスト育成のためのカレッジで、世界中からアーティストを目指す若者が集まっている。ヨーロッパはもちろん、世界中から才能のある若者が集まり、未来の世界的アーティストを目指して研鑽する。才能の無い者は容赦なくふるい落とされる。
そんなカレッジがどのような教育を行っているかというと、入学したらまず、歴史に残る名画を指定されて「その絵に隠されている意味をすべて書く」という論文作成の課題から始まる。アーティストになるためには、名作で表現された意味を徹底的に理解するところから教育されるのだ。
このような姿勢は、アート・コレクターにも一貫している。
数年前、ある人物が日本人の若い女性アーティストをヨーロッパでデビューされようと考え、ちょっとしたイベントを企画した。パーティー形式で彼女の作品展を開催。ヨーロッパの富裕層を招いてお披露目をしたのだが、その場で彼女の作品を見たゲストたちは口々に作品の意味を質問した。ところが彼女は何も答えられなかった。ゲストたちは「アーティストが自分の作品を説明できないとは!」といたく立腹して帰って行ってしまった。
これがアートやクリエイティブに対するヨーロッパ基準であり、つまりは世界基準だ。
これはアート作品だけの話ではない。商業デザインもそうだ。音楽アーティストのアルバム・ジャケットなどは隠喩のオン・パレードだ。サラ・ブライトマンの「エデン」だったか「ラ・ルーナ」だったかのジャケット写真には実に800もの隠喩が隠されているという話を聞いたこともある(本当かどうかは知らないが)。
ポスターやCMなどの広告作品も、名作と言われるものはもちろん多くの意味が重層的に込められている。
アーティストやクリエーターが作品に多くの意味を込めるのは、文字どおりそれを見る者にとって作品を「意味あるもの」にするためだ。
ちなみに、現代アートにおいては「意味の無いもの」にも「意味」が込められている。ようするに、ほんとうに意味のないものは作品としては成り立たないということだ。それはアートだけでなく広告も同じだ。というか、アートは分かる人にだけ分かればいいとも言えるが、広告はそうではない。なるべく多くの人に伝えるのが広告の仕事であり、その意味では広告表現に込められた意味は分かりやすいものでなければならない。
しかし、都議会選のイメージ・キャラクターに橋本環奈を起用することの意味が僕には分からない。これは、僕が橋本環奈のことをよく知らないから理解できないのだろうかと思って少し調べてみたがそれでもよく分からない。強いて言えば、選挙権年齢が昨年に満18歳に引き下げられたこともあり、ちょうど18歳の橋本環奈が選ばれたとも考えられるが、理由としては弱い。というか、橋本環奈は福岡出身で福岡在住。18歳という年齢がキー・ファクターなら、たとえば東京出身の齋藤飛鳥(乃木坂46)でもよかったのではないか? まあ、一般の人の知名度は橋本環奈の方が上なのかもしれないが、ちょっと安易な気もする。まあ、ファン以外の東京の一般的な若者にとっては橋本環奈でも齋藤飛鳥でもたいした違いは無いように思える。
入れ替え不可能なクリエイティブとは?
18歳ということでは、平祐奈という手もある。2016年度CM起用起業数ランキングで女性部門4位の売れっ子だから、ギャラが高すぎたのかスケジュールが合わなかったのか分からないが、言いたいことは「入れ替え可能なものは、クリエイティブとして弱い」ということだ。
今回の都議会選PRキャラクターとして、橋本環奈でも平祐奈でも齋藤飛鳥でも、たいして変わりは無かったのではないか? たいして変わらないとすれば、それはやはりクリエイティブとしては弱い。2020年にオリンピック大会の開催を控える大都市の議会選クリエイティブは、やはりすこしでも世界基準に近づいてもらいたい。
では、僕だったら誰を起用するか?
それはずばり。 平手友梨奈だ。
メッセージ性の強いアイドル・グループである欅坂46の顔。
その欅坂46のデビュー曲「サイレント・マジョリティー」では、
選べることが大事なんだ
人に任せるな
と歌っている。
まさに選挙PRのキャラクターにふさわしいではないか?
また、欅坂46は「アイドルなのに笑ってない」ということでも話題になったが、だからこそ選挙のPRイベントである「笑顔投票所」で笑顔を見せることにも意味が出てくる。
「そうは言っても、平手友梨奈には選挙権がない」と言う人もいるだろう。
たしかに平手友梨奈は2001年6月25日生まれ。7月2日の都議会選の時点でもまだ16歳だ。16歳の女の子が選挙PRのイメージ・キャラクターというのは、それこそ意味が通らないと思うかもしれない。しかし、それこそがクリエイティブだ。表現の力で意味の無いものに意味を持たせる。それがクリエイティブということだ。
平手友梨奈の場合は、こんなコピーにすればよい。
選挙に行きたい!
選挙に行きたくても選挙権がないから行けない。16歳の女の子にそれを言わせることで、18歳以上の大人たちへの強いメッセージになる。そして(ここが重要なのだが)この言葉を言える(説得力を持たせることができる)18歳未満の女の子は、今の日本において平手友梨奈以外にはいない。
この代替不可能性にこそ、クリエイティブに力を宿らせるのだ。
ちなみに「選挙に行きたい!」というコピーは、「選挙に行け」とか「選挙に行けていいなあ」とか、さまざまなバリエーションで展開もできるが、とまれ、戦況PRに若くてカワイイ女の子を使うのはいいが、かわいいだけではダメなのだと思う。