日本でもメジャーになった「ゲーム・オブ・スローンズ」
平成最後の夏ドラマ。石原さとみ主演で注目された「高嶺の花」。最終回視聴率は11.4%で、可も無く不可も無い結果だったが、内容的には不満が残るものだった。
数々の伏線は回収されず、華道家としての修羅がテーマだったはずなのに最後は「わたしはお花」「みんながお花」などという、文字どおり「頭の中がお花畑」な結末にネットでも批判があいついだ。この結末には、華道界の人は怒っていいと思う。
個人的にも「アンナチュラル」での石原さとみに好感を抱いていただけに、今回の「高嶺の花」の彼女はちょっと共感できないキャラクターだし、華道家(芸術家)としての在り方も共感できず説得力も無く残念ではあった。まあ、その点は制作側の問題で石原さとみの責任でもないのだが。
ただ、僕が注目したのは第一話の最初のほうに出てくるエピソードだ。石原さとみ演じる主人公の月島ももが暮らすマンションに妹の月島ななが訪問する。そこに、ももがベッドから起きてリビングに入ってくるのだが、そこでのやりとりのセリフに時代の変化を感じた。
なな「何時に寝たの?」
もも「朝かな、、、」
なな「ダメよ。身体がおかしくなっちゃう」
もも「ゲーム・オブ・スローンズを見てただけ」
というくだりに時代の変化を感じたわけだ。
海外ドラマのファンには説明不要だが、「ゲーム・オブ・スローンズ」はアメリカのHBO製作の大ヒットドラマ。中世ヨーロッパをモチーフとした架空の世界を舞台に、数々の王侯貴族が覇権を争うドラマだ。ハリウッドの大作映画並みの美しい映像。主要人物が次々と殺される先を読めない展開。魅力的な数々のキャラクターと相まって世界中で大ヒット。2015年の第67回エミー賞では作品賞を含む12部門で史上最多受賞など、各種アワードでの受賞歴は数知れず。世界中で多くの熱狂的なファンを生み出しているドラマだ。
現在、シーズン7まで放映済み。最終シリーズとなるシーズン8が撮影中で、公開は来年の予定だが、現在までのエピソードだけでも70話くらいあるが、あまりにおもしろいし、ストーリーも複雑なのでファンは何度も視聴している。僕も現在三周目だ。
しかし、それくらいおもしろいこのドラマも、日本では以前は衛星放送でしか観ることができず、海外ドラマファン以外にはあまり知られていなかった。地上波で放送されなければ、まだまだ日本ではメジャーにはなれない。
しかし、その地上波ゴールデンタイムのドラマの中で、主人公の口から「ゲーム・オブ・スローンズ」の名前がさらっと出てくる。これは、このドラマが日本でもいよいよメジャーになってきたことの証拠だと思う。
ちなみに、他の海外ドラマの中でも、この「ゲーム・オブ・スローンズ」の話題はけっこう出てくる。主人公がこのドラマのファンだったり、劇中で「ゲーム・オブ・スローンズ」のエピソードが語られたり、このドラマを見ていなければ分からないシーンが登場することがよくあるが、いよいよ日本でもそうなったということだ。
増殖する海外ドラマのファン
「ゲーム・オブ・スローンズ」が日本でもメジャーになってきたのは動画配信サイトの力だと思う。これまで海外ドラマは主に衛星放送で放映されていた。地上波で放送されて人気になった海外ドラマもあるが、それは少数で、基本的にファンは衛星波で見ていた。
それが近年はHULUやNetflix、Amazonプライムなど動画配信サイトの利用者が増えてきたこともあって、海外ドラマのファンも随分と増えたと思う。
僕の周辺でも、若い女性から定年退職したオヤジまで、年代性別を問わず「最近はテレビ見ない。動画配信ばかり見ている」という人間が増えた。まあ、テレビ番組の視聴率が下がる一方なのもよく分かる。それだけ、動画配信サイトのコンテンツが充実しているからだ。
動画配信サイトは近年、オリジナル作品にも注力している。海外ドラマだけでなく、HULUが日本で製作したオリジナルドラマ「ミス・シャーロック」など並の地上波ドラマよりよくできているし、Amazonプライムのオリジナル・リアリティ番組の「バチュラー・ジャパン」も人気で、日常会話デコの話題も出てくるようになっている。
Netflixはドキュメンタリー番組にも力を入れていて、これも日本の地上波では放送できない濃い内容のものが多い。世界の極悪刑務所にカメラが入ったり、南米の麻薬王の元殺し屋が自分の殺人現場を案内するツアーに同行したり。日本の地上波ではとても放送できないようなドキュメンタリー番組が満載だ。
こういう地上波では見られないドラマ、バラエティ、ドキュメンタリーが見放題なのだから、動画配信サイトをまだ見ていない人は見たほうがいいと思う。HULUもNetflixも、たいていの配信サイトは初月無料などのお試し期間があるので、見ないと損だ。
ただ、動画配信サイトを見慣れてくると、日本のテレビはほんとうに大丈夫なのかと心配にもなってくる。
もはや世界標準でなければ太刀打ちできないコンテンツの世界
ドラマだけをとっても、海外ドラマや配信サイトのオリジナル作品を見ていると、地上波のドラマを見る必要性を感じなくなる。
それはある意味、当然であって作り方がぜんぜん違う。
まず、制作費がまったく違う。前述の「ゲーム・オブ・スローンズ」シーズン8など、制作費は約100億円だ。それだけの予算を日本のドラマ制作がかけられるはずもない。
しかし、最大の違いは製作のシステムだと思う。
主にアメリカ、カナダのドラマ製作にはショーランナーというポジションがある。これは、制作現場の最高指揮官のことだが、基本的にシナリオ・ライター出身の人間が担当する。
これはつまり、海外ドラマにおいて脚本の重要性がちゃんと認識されているということであり、脚本家の地位が高いということだ。だからだと思うが、とにかく海外ドラマの脚本のレベルは高い。
映画でもドラマでも脚本の重要性は言うまでもないが、日本のドラマで脚本家がそれほど高い地位を築いているとは言えない。野島伸司や北川悦吏子など、一部の脚本家はスターかもしれないが、そのようなスター脚本家がドラマの制作現場で最高責任者になるなど、日本では聞いたことがない。しかし、海外ドラマではそのポジションがしっかりと確立している。
そして、これは制作費とも関連してくるが、脚本段階でのリサーチもしっかりしている。だから、考察も深い。「高嶺の花」のように、芸術家としての華道家を描きながら、その神髄が「私は花」などという、まるで子どもの思いつきみたいな落とし方はけっしてしない。
海外ドラマでもし、芸術家の修羅をテーマにしたドラマを作るとしたら、おそらく古今東西の偉大な芸術家たちの芸術観、アートに対する思想というものをしっかりとリサーチした上で、「現代におけるアートとはなにか?」という問いにしっかりと答えてくれるドラマを作ってくるだろう。
つまり、インテリジェンスある大人が観ても満足できるインテリジェンスが盛り込まれるということだ。
たとえば「ジーニアス」というドラマがある。IT企業で大儲けした起業家が、最新のハイテクで理想の病院を作るというドラマだが、さまざまな「夢の治療」が登場する。
たとえば、戦争で視力を失った元兵士に対して、カメラで撮影した映像信号を視神経に直接送り込んで見えるようにするエピソードがある。これなどまさに絵物語のように思えるが、実際にイスラエルの医療ベンチャーがこの技術を開発し実験段階では成功しているというニュースもあった。つまり、まだほとんど知られていない実際の世界最先端の医療情報を、このドラマはちゃんと取り込んでいるということだ。こういうことは、専門家によるかなり綿密なリサーチを必要とする。海外ドラマはそのレベルで制作しているのだ。
こういう作業は日本のドラマでは不可能だ。
絵作りも違う。「ゲーム・オブ・スローンズ」だけなく、海外ドラマの多くは、ほとんどハリウッド映画レベルの映像美を楽しませてくれる。動画配信サイトのオリジナル作品でもそのレベルだ。
たとえば、Netflixの最新オリジナル作品の「ミスター・サンシャイン」。主演はなんと、イ・ビョンホンだが、その映像美はまるで映画だ。その映像の美しさだけでも一見の価値があると思う
このようなシナリオの完成度、映像美の違いに加えて、もうひとつ僕が危惧するのは、日本はすでに韓国に負けているという事実だ。
Netflixが顕著だが、アメリカの動画配信サイトは積極的に韓国制作を推し進めている。韓流ドラマや映画は韓国だけでなく日本や中国などアジア各国で通用するからだろう。前述の「ミス・シャーロック」のように、日本制作で良質なドラマもあるにはあるが、スケール感も映像美もまるで違う。
このままでは、ドラマ制作の投資はますます韓国に集中し、その実力差はますます拡大し、日本のドラマ制作は完全に負けてしまうだろう。というか、すでに負けている。
そうならないためにも、日本のドラマは制作現場の在り方から変えていく必要があるだろう。まずは脚本家の地位を上げることだろう。そして日本のドラマも、世界で売れる世界標準のドラマを作る。そこを志向することだ。
初心者向けお勧め海外ドラマ
そんなわけで、日本のドラマ界の危機を感じている僕だが、それだけ海外ドラマのレベルが高いというこことで、HULUやNetflixなどのおかげで、いつでも気軽にそんなドラマを観られる時代になったのだから観ないのはもったいない。
というわけで、海外ドラマ初心者のためにお勧めのドラマをいくつか紹介する。海外ドラマファンにはお馴染みの作品ばかりだが、初心者にはこのあたりからがお勧めだ。
ただし、初心者向けといってもお手軽という意味ではない。海外ドラマ初心者のみなさんだからこそ、レベルの高い作品を観てハマって欲しい。その意味で、誰が観てもおもしろいと思ってくれそうな良質な作品をご紹介する。
「ゲーム・オブ・スローンズ」
HULU、Amazonプライムで配信中。
前述の作品。文句なしにおもしろい。ただし、最初はちょっと退屈するかもしれない。エピソード3までは頑張って観て欲しい。それでもハマらない場合は、趣味が合わないということで。
「SUITS」
HULU、Amazonプライムで配信中
10月の秋ドラマで、フジテレビがリメイク版を放送。主演が織田裕二と鈴木保奈美ということでも話題になっている弁護士ドラマ。ハーバード卒業生しか採用しないというNYの一流弁護士事務所で活躍する辣腕弁護士と、資格がないのに偽って仕事する偽弁護士のコンビの話。
弁護士ものだが法廷シーンはほとんど無い。法律面から捉えた企業ドラマと考えた方がいいかもしれない。M&Aやインサイダー取引の話がふんだんに出てくる。英国のヘンリー王子と結婚したメーガン・マークルも主人公(偽弁護士のほう)の恋人役で登場。ちょっとしたベッドシーンもあります。
テンションの高いドラマだが、こんなドラマを日本のテレビ局がリメイクできるか、織田裕二があの頭脳明晰で勝つためなら手段を選ばない豪腕弁護士を演じきれるのか心配になる。見比べてみるのもおもしろい。その意味でもこの秋、観る価値のあるドラマです。
「クリミナル・マインド」
HULU、Amazonプライムで配信中
FBIのプロファイラーたちが主人公の犯罪ドラマ。彼らが扱う犯罪は、猟奇的なものばかりで、つまりドラマもけっこう猟奇的。ただ、単にグロいのではなく、プロファイラーたちが主人公なのでかなり心理戦が主軸になるドラマとも言える。その意味では知的レベルの高いドラマ。また毎回、冒頭に古今東西の有名作家、政治家などの言葉が語られるが、それが毎回のエピソードの底流となっている。こんなドラマを書けるアメリカの脚本家の知的レベルの高さにビックリする。
犯罪ドラマが好きな人はぜったいにハマる。ただし、毎シーズン22話くらいあって、現在までにシーズン11まで配信中(Amazonプライム得点は10まで)。つまり全部見るには242話くらいあるので、ハマるとたいへんなことになる。
「ザ・ラストシップ」
HULUで配信中。Amazonで視聴するには購入の必要あり。
こちらはタイトルどおり艦船もの。致死的なウィルスが猛威をふるい、世界は壊滅状態になり政府も軍も機能しなくなる。そんな中、一隻のアメリカ軍艦が世界を救うために活躍するというお話。戦艦同士の戦いあり、潜水艦とのバトルあり、地上戦のシーンもある。こういうドラマを作るには金がかかってしょうがないと思うのだが、それをやってのけるアメリカのドラマ界は凄いと思う。ウィルス退治の方法を探るストーリーも緊迫感がある。ちなみに、シーズン3では、真田広之も重要な役で登場する。
「ホームランド」
HULUで配信中。Amazonでは購入が必要。
CIAの女性エージェントが主人公の諜報もの。諜報ものなので全編にわたって緊張の連続。
シーズン1では、捕虜になっていたアメリカ兵が解放されて帰国。国家的な英雄となり副大統領候補にまで上り詰めるが、主人公は彼が実はテロ組織のスパイではないかと疑う。というところから始まる物語は、緊迫感に溢れていて目が離せない。しかも、ストーリーは二転三転する。ゴルゴ13みたいに、世界情勢も手軽に分かる。
ただし、主人公の女性が双極性障害(つまり躁鬱病)という設定で、かなりエキセントリック。なので共感しづらいという難点がある。主人公のキャラクターに共感できない人は観てられないドラマではある。
以上、海外ドラ初心者の方には、以上の4作品からをお勧めです。
ちなみに、動画配信サイトでは過去の人気作や名作も観られます。
「セックス・アンド・ザ・シティ」など、いま観てもリアル。「東京タラレバ娘」の元ネタもここから? って話もいろいろ出てきます。今どきの女子も楽しめる、けっして色あせてない作品。こちらはAmazonプライムで配信中。
ちなみに、以上の作品は、HULUやAmazonプライム以外でも(dTVなど)でも配信されている作品もありますが、そちらは調べてません。すみません(汗)
とにかく、動画配信サイトは概ね月額千円くらいで、毎日何時間も観ても飽きないくらいコンテンツが豊富。コスパはかなり高いです。僕はHULUやNetflixを見始めてからテレビを見なくなりました。というか、ベッドで観れるようにしているので、帰宅したらベッドに直行です。そんな中毒性があるので危険ですが、秋の夜長にはぴったりだと思います。
迷ったらまずはHULUあたりから。最初の二週間は無料です。