ロング・インタビューで明らかになったニトリ躍進の秘密
ダイヤモンド・オンラインでニトリ創業者の似鳥昭雄会長のロング・インタビューが掲載されている。
4回にわたって連載されたこのインタビュー。ニトリ躍進の秘密がいろいろとわかって興味深い。示唆に富むエピソードも豊富で、ビジネス・パーソンは一度は読んでおいたほうがいいと思うが、その中でも特に衝撃的だったのは、第四回目のインタビューで語ったこの言葉だ。それは、
「家具はもう必要ない時代に入ってきちゃってますから」
という言葉だ。
ニトリはもう家具屋ではない!「お、ねだん以上。」のためなら何でもやる
こんなことをメディアの取材に答えて平気で言えるトップはほんとうに凄いと思う。
ご存じの通り、ニトリは家具の製造小売業(SPA)の会社だ。家具を売って北海道の小さな家具店から、年商2800億円の大企業にまで成長した企業だ。それなのに創業者である会長が「もう家具の時代じゃない」と言う。これはもう、完全に自分たちの本業を否定している。
しかし、実は自分たちの本業を否定できる企業が強いし凄い。
経営学の教科書やビジネス書ではよく「創造的破壊」とか「イノベーション」とか、よく言われる。
そして、最もラディカルな創造的破壊とは自分たちの本業の否定、本業を葬り去ることだが、これが現実にはなかなか難しい。
どの企業もそうだが、経営幹部も従業員もその企業の「本業」に愛着を持っている場合も多いし、本業にこびりついた古い常識を払いのけることも難しい。本業を否定することは、自分の存在意義を否定されるかのように感じる人も多い。だから、頭で時代や市場の変化を理解していても、感情的に受け入れられない場合も多い。
フランスやイギリスを筆頭に、世界がEVシフトしているクルマ市場でも、日本メーカーは一気にEVに舵が切れず、燃料電池車にこだわるのも、メーカーの人間には「自動車とは内縁エンジンで動くもの」という感情的なバイアスが働いているからではないかと思う。
「クルマとはこういうものだ」みたいな思い込みは、どの業種、どのジャンルの企業にもある。
そして、そのようなこだわりが企業の強みを生み出す場合もあるが、時代や市場が大きく変わる場合は、そのこだわり故に戦略を誤らせることもある。
スマホを巡るMicrosoftもそうだった。
本業を否定して生き返ったApple
iPhoneが発売されて、世の中にスマホというものが登場してから10年が経つ。
今では誰もが忘れているかのようだが、実はAppleという企業は90年代には倒産寸前にまで追い込まれていた。
パソコンのOSを巡る戦争では、MicrosoftのWindowsに完敗。市場の9割をWindowsに取られ、ハード・ウェアとしてのMacも迷走を極め、熱心なAppleファンでさえもう倒産は時間の問題だと思っていた。
そのような状況の中で、スティーブ・ジョブズがAppleに復帰。iMacやiPodなど次々とヒット商品を生み出し、Appleは奇跡的に回復するのだが、Microsoftを抜き、時価総額世界一にまで成長できたのはなんと言ってもiPhoneの成功による。
しかし、iPhoneがリリースされた当時、(後にMicrosoftのCEOとなる)スティーブ・バルマーは「こんなものが売れるかい!」と切って捨てたのだ。
結果はご存じの通りだが、ジョブズとバルマーの発想の何が違ったのかというと、それはITCとはなにか? ということへの、考え方の違いだったと思う。
ITCがビジネスのツールだと考えれば、当時も今もスマホはパソコンに比べればあまりに非力だ。しかし、ITCを人間が自由を獲得するタメのツールだと考えれば、スマホにはパソコンにはない優勢性がある。なによりも自由だ。
つまり、最初から「自由」が大きな(根源的な)価値観であったジョブズにとっては、パソコンは自由を獲得するための武器であり、スマホ(iPhone)という新しいツールができた時に「もうパソコンの時代じゃない」と考えることができたのだと思う。
そして、自宅のガレージでパソコンを組み立てて販売するところからスタートしたジョブズが、「もうパソコンの時代じゃない」と思えたことが、Apple躍進の大きな理由なのだと思う。
大きな成功を収めた企業は、その成功を否定することは難しい。iMacやiPodで大きな成功を収めていたAppleが(ジョブズが)その成功を自ら否定するようなiPhoneというツールを生み出せたことは、やはり凄いことなのだ。(実際、iPhoneがあれば、iPodは必要無い)
似鳥会長の「もう家具の時代じゃない」という言葉は、その意味で凄い言葉なのだ。
しかも、落ち目になってからではなく、いまだに成長過程にありながら、自ら本業の終わりを宣言できる。
それは企業人として過激なことだが、それはニトリという企業がまだまだ成長できる姿勢を持っていることの証だ。ニトリがどこに向かうのか、まだまだ目が離せないと思う。