イヴァンカが語る女性の未来
トランプ米大統領の娘で大統領補佐官のイヴァンカ・マリー・トランプが来日。この週末のニュース、ワイドショーは、座間9遺体事件の白石容疑者とイヴァンカの話題で持ちきりだ。
多忙なイヴァンカのこと。テレビなど見てるヒマはなかっただろうが、どう見ても自意識の強い人なので、日本のテレビに自分がどう扱われているかは気になるはず。ホテルの部屋で朝食を食べながら朝のニュースを見ていた可能性はある。もしそうだとすれば、イヴァンカがこの猟奇的な事件を知ることになった可能性もある。白石容疑者に対するイヴァンカのコメントを聞いてみたいのだが、誰もそんな質問をしないし(できないし)ちょっと残念だが、それはまあどうでもいい。
重要なのは女性の話だ。
イヴァンカの今回の来日における最重要テーマのひとつが、外務省が毎年開催している国際女性会議WAWへの出席。
この会議の場でイヴァンカは「地球上の女の数は35億人。女性が活躍すれば世界は凄いことになるわよ!アベノミクスはウーマノミクスよ!」みたいなことを話して、世界の女性の活躍推進を訴えた。
イヴァンカが言ってることに目新しさは特にないが、もちろん批判するつもりもない。まったく同感だ。世界の女性はもっと自由に活躍すべきだし、そんな社会が広まれば世界は変わる。
ただ、彼女のスピーチを聞いていて、ちょっと気になったこともある。
それは、世の中の企業人、特に男性のビジネス・パーソンがウーマノミクスをどう捉えているか?というマーケティング屋的な関心だ。
つまり、世界の女性がさらに社会進出して活躍するようになった時に、女性マーケットがどうなるか。それを、多くの企業人はどう考えているかということだ。
女性が活躍してもファッション市場は成長しない
つまり、女性が活躍すれば大きく成長する市場はなにか? ということだ。
たぶん、多くの企業人は「それは女性市場に決まってるだろう」と考えていると思う。この場合、女性市場とは主にファッション、美容、家電など、従来から女性がメイン・ターゲットの市場だと考える人も多いと思う。
しかし、そうではない。
たしかにファッション、美容には女性は金を使うし、家電もいわゆる白物家電は女性が購入決定権を持ち続けるだろう。
そして、途上国の女性が解放されれば、これらの女性市場は爆発的に成長する。
しかし、欧米日本の先進国はどうか?
たぶんファッション業界は大きくは成長できないと思う。何故なら、女性が経済力を持てばブランド品を買うという時代はもう終わっているからだ。
最近、人気声優の竹達彩奈の私服が3万円の服であることがファンに知れ、ちょっとした騒ぎになっている。「高い服を着てる」「金かけてるなあ」との声がファンから巻き起こり、それに対して「若い女性が3万円の服って高くない」とか「3万円が高いとか、女性と付き合ったことないからそう思うんだろwwww」などの反論も寄せられ、ちょっとした炎上騒ぎになっている。
若い女性にとって3万円の服が高いか安いかは意見が分かれるだろう。しかし、個人的な感覚では、それなりに売れている芸能人の私服が3万円というのは、安い。堅実とも言える。が、実は今どきの女子のファッションに対する感覚としては、これが普通なのかもしれない。つまり、ある程度のお金があっても、高いブランドものは買わない。
若い女性だけではない。オトナ女子のみなさんも、昔ほどブランドものは買わなくなったように感じる。仕事用のバッグにしても、20代女子もオトナ女子もマイケル・コースが人気とか、女子高生が競ってヴィトンを買っていた時代をリアルに体験した人間からすれば隔世の感がある。
つまり、昔ほど女性はファッションに金をかけなくなった。特に意味なく高価なブランドものには金を使わない。
たぶん中国人はまだまだブランドものを買うのだろうし、途上国の人たちもこれから買うようになるのだろう。
しかし、先進国においてはファッション市場はそれほど成長しないと思う。
美容市場は成長するがレッド・オーシャン
美容市場は成長するだろう。
こんなことを言うと、ゴリゴリのフェミニストは発狂するだろうが、美しくなることは女性の本能だからだ。
それは、途上国での女性支援をやっている人たちの証言を聞けば分かる。
どんなに過酷な人生を生きてきた途上国の女性でも、一番やりたいことは「お化粧」だと言うし、イスラム文化圏でヒジャブを被る女性も、その他人に見せてはならないベールの中の顔はフル・メイクだ。アシッド・アタックの被害に遭い、顔を焼かれた女性も美容室に行き、メイクをする。
とにかく、女性は美しくなることに価値観が高い。金をかける。というか、金をかけたがる。
昔、ダイエーが「100円化粧品」なるものを売り出したことがある。化粧品の原価はわずかなもので、数千円の化粧品と同じものが100円で売ることができる。というわけで「良いもの安く」がモットーのダイエーが売り出したのだが、さっぱり売れなかった。
成分や効能が同じなら、女性は高い方の化粧品を買うのだ。女性は、100円の化粧品など使いたくなかったのである。
だから、先進国の女性も、ジェンダー平等が進み男女の賃金格差がなくなり経済力がつけば、さらに美容に金をかけるだろう。
この美容のジャンルには、化粧品やエステはもちろんだが、広い意味ではサプリも含まれるし、美容家電というものもある。
僕は10年以上前から「パナソニックは美容家電に注力せよ」と提言してきたのだが、どうもピンときてもらえなかったようで液晶とかプラズマに勝負をかけて会社をつぶしかけた。そのパナソニックも近年、ようやく美容家電に力を入れはじめた。実はパナソニックの美容家電には致命的な欠点があるのだが、この分野に注力し始めたのは正しい。
化粧品は高い方が売れるというのは、美容家電でも同じだ。ヘア・ドライヤーなどパナソニック製でも1000円くらいで買える時代にダイソンのドライヤーは5万円くらいする。実に50倍だがダイソン、人気が高い。実は僕も妻と娘のために買ってしまった。
というわけで、ファッションと違って(広い意味での)美容商品は、まだまだ高い方が売れる市場なので、成長性もある。ただし、そんなことは誰もが分かっていることなので、ここは熾烈なレッド・オーシャンだ。将来は、さらに真っ赤な市場になるだろう。
女性活躍時代のブルーオーシャンとはオヤジギャルである
ところで、(たぶん)多くの企業人が、それも男性だけでなく女性自身でさえ見過ごしているであろう市場がある。
それはオヤジ市場だ。
つまり、オヤジギャル市場である。
オヤジギャルとは、バブル時代に一世を風靡した中尊寺ゆつこのマンガ「スウィート・スポット」が流行らせた言葉で、1990年の流行語大賞も受賞している。
バブル期というのは、日本の歴史上(もしかしたら世界の歴史上)若くてキレイな女性が最強だった時代だ。
その最強伝説を書き綴れば、一冊の本が書けるくらいだが、バブル初期の86年に「男女雇用均等法」が施行されたこともあり、女性活躍推進の時代でもあった。大企業が女性社員ばかり集めて商品開発チームを作ったりしていた。
ブランドものもバンバン売れていた。サンローランとディオールくらいしか知らなかった日本人がイタリア・ブランドを知った。バーもラブ・ホテルも、どんどん女子受けするようなオシャレなものに変わっていった。日本人の誰もがオシャレに目覚めた時代だった。
ところが、そんな時代に登場したのがオヤジギャルである。
オヤジギャルとは、焼き鳥屋とか競馬とか、オヤジしか行かないような場所に好んでいくようなギャルのことである。しかも、そのオヤジギャルたちはファッションにうといダサい女子たちではない。ワンレン・ボディコンの典型的なバブル女子たち。そんな女子たちが、オヤジたちの聖域に進出した。それがオヤジギャルである。
バブル真っ盛りの頃、長谷川慶太郎さんが「麻雀・カラオケ・ゴルフは、おやめなさい」という本を出した。当時、これらはダサいオヤジの象徴だったのだ。
ところが、バブル女子たちはこのダサいはずの領域にまで進出してきた。カラオケに興じ、ゴルフを楽しみ、麻雀はやらなかったが競馬場には行った。女子が来るようになると、カラオケもゴルフ場も競馬場も、女子受けするようにどんどんオシャレなものになっていった。前述の通り、ガード下の焼き鳥屋にも進出してきた。そして、オシャレな焼き鳥屋が増えていった。
こういう流れはその後も続いている。先日、用事があって神戸に行った。それで、関学と神戸女学院の女子学生たちと飲み会をやることになった。関学、神戸女学院と言えば、関西の学生オシャレ・シーンを牽引する大学だ。東京で言えば慶応あるいは青学と聖心みたいな存在だ。そんな女子たちとの飲み会だが、向こうの本拠地なので店のセレクトは女子にまかせた。で、彼女たちが指定してきた店がもつ鍋屋だった。
これは、なにも僕がオヤジだから気をつかってもつ鍋屋にしてくれたわけではない。純粋に、彼女たちがもつ鍋を食いたかったからそうなっただけだ。昔はもつ鍋など女子の食い物ではなかったはずだが、90年代にもつ鍋ブームが起きて、女子が好んで食べるものになった。
このように、かつては男たちの聖域だった場所に、バブル以降はどんどん女子が進出している。
その他、たとえばマッサージ店も昔はとても女性がひとりで入れるような雰囲気ではなかったはずだが、最近は完全に女性ターゲットの小綺麗なマッサージ店が増えている。深夜でも女性のひとり客がマッサージ店に入ってくる。
牛丼屋も王将も、男の客しかいなかったのに、今では女性のひとり客も普通だ。
つまり、女性の社会進出が進むと、それまで男の聖域だった場所にどんどん女性が入り込んでくる。これからの女性市場という意味では、そこがたぶんブルー・オーシャンなのだろう。
まあ、実はこれはバブル以降、30年にわたるメガ・トレンドなので、ブルー・オーシャンと言っても実はけっこう多くの場所が食い散らかされてはいる。とはいえ、ファッションや美容ばかりに着目しないで、なにかまだ女子が進出していない場所はないかを探すのが、企業人の(マーケティング屋の)正しい姿勢だろう。
たとえば、ビジネス・ホテル。女性の社会進出が進めば、出張族の女性も増える。そうすると、女性ターゲットのビジネス・ホテル需要が増える。ビジネス・ホテルもリッチモンドホテルやロハス・ホテルなどは、かなり女性客を意識しているが、まだ決定的ではない。また、多くのビジネス・ホテルはまだまだ男性テイストだ。女性に特化したビジネス・ホテル需要はまだ成長余地はあるだろう。
探せばまだまだそんなジャンルはあるはずだ。
イヴァンカが言うように、女性がさらに活躍する時代になれば、増殖するのはオヤジギャルだ。マーケティング屋はもう一度、オヤジギャルというものに向きあうべきなのだろう。