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波瑠「あなそれ」主演は大失敗?

「あなたのことはそれほど」ネットで大不評

「登場人物がみんなクソ過ぎる」ということでネットで大批判を浴びているドラマ「あなたのことはそれほど」(TBS系火曜22時。以下、あなそれ)。波瑠が演じる渡辺美都と鈴木伸之演じる有島光軌の不倫を軸に展開されるドラマだが、従来の不倫ドラマと違って不倫関係にある二人に罪悪感も後ろめたさも全くない。

主人公の美都は占い師から「二番目に好きな人と結婚すれば幸せになれる」と言われ、渡辺凉太(東出昌大)と結婚するが、飲み会の帰りに偶然、中学・高校の時に好きだった有島光軌と再会。たいした葛藤もなく二人は不倫関係に。そして温泉旅行に行く。二人で露天風呂に入って夜空を眺めながら幸せをかみしめる美都だが(この時点ですでにかなりクズ)、部屋に戻って愛し合おうとしたその瞬間に光軌の携帯が鳴る。慌てて帰ろうとする光軌。そして、美都にこう告げる。

「子供が生まれた。奥さん、出産のための所沢の実家に帰ってたんだ」

普通なら衝撃のセリフだが、美都は、「大丈夫。私も結婚してるの」とのたまい、結婚指輪をはめてみせる。

すると光軌が「なんだ、よかった」と笑う。

ほとんどの視聴者はここで「よかった〜じゃねーだろ!」とテレビ画面に突っ込んだと思うが、このような二人の不倫の在り方がクズ過ぎると批判を浴びているわけだ。主人公にまったく共感できないという声も多いようだ。

そのため視聴率も初回11.1%から第二話9%へと急落。第三話は9.5%と上げたが一桁台が続いている。

あまりの不評ぶりに、主演の波瑠自身が「私も主人公に共感はできないが、これも仕事だからしょうがない」という主旨のツイートを投下。「波瑠って意外と武闘派」というヘンな評価も得てしまった。

実は不倫ドラマではなかった!意外な展開?

というわけで、あまりの不評に視聴率も低迷するこのドラマだが、回が進むにつれ違った評価を得て話題が盛り上がっている。実はこのドラマ、不倫ドラマではなく恐怖ドラマだったのだ。

妻の言動に不信感を持った夫の凉太はついに美都の不倫を発見するのだが、回を追う毎に凉太役の東出昌大の演技が狂気を増していく。

昨日放送された第五話の最後、美都と凉太は結婚記念日であり美都の誕生日でもある記念日に、オシャレなレストランで食事をする。そして、食事をしながら「美都が不倫していること」を知っていると告白する。そして、動揺する美都に対してこう言い放つ。

「みっちゃん、僕はこの先どうあろうと、今の君がどうあろうと、ずっと君を愛する。大丈夫なんだ。ずっと変わらず君を愛することができるよ」

「誓うよ。これが僕のプレゼントです」

笑顔を話すが目は笑ってない。あまりに怖い誕生日&結婚記念日のプレゼントだ。まさにサプライズ!

この東出昌大の演技にはすでに「平成の冬彦さん」の呼び名も高まっている。

冬彦さんとは、今のアラフィフ以上の人ならご存じかと思うが、かつて25年前)にTBSで放送されたドラマ「ずっとあなたが好きだった」で佐野史郎が演じた狂気のマザコン男=桂田冬彦のこと。この時の佐野史郎の演技は怖すぎる怪演として日本のドラマ史の伝説になっているが、今回の東出昌大の演技はそれに匹敵、あるいは超えるかもと期待が高まっている。

というわけで、当初は「主人公がクズ過ぎる」「共感できない」と不評だったこのドラマも、不倫ドラマからホラーへと様相がかわるにつて注目度が上がってきている。視聴率も第四話で9.9%まで回復。次回は二桁に届きそうな勢いだ。

余談だが「ずっとあなたが好きだった」では最終盤のクライマックスで冬彦さんが妻の美和に向かって「ずっとあなたが好きだった」と言うのだが、「あなそれ」の終盤でもこのセリフが出てくるのでは? と思わせる伏線も張られている。というか、僕らの世代からすると、ぜひこのセリフを「あなそれ」でも登場させて欲しい。

というわけで、この先の展開次第では内容的にも話題的にもかなり期待できそうな「あなそれ」だが、どうにも気になることがある。それは、波瑠がなぜこの役を引き受けたか? である。

波瑠がこの役を引き受けたのは失敗?

ハッキリ言って、波瑠にとってこのドラマは得るものはほとんど何もないと思う。仮に恐怖ドラマとしてこの先、大ブレイクしたとしても、そこで話題になり人々の記憶に残るのは(たぶん)東出昌大の怪演であり、東出が怪演すればするほど波瑠の存在感は薄まる。

波瑠と言えばご存じ「あさが来た」で大ブレイクして、高視聴率女優のイメージが強いし、女性人気も高い。が、しかし「おかあさん、娘をやめていいですか?」の平均視聴率は5.7%。金曜22時枠でのこの数字は大惨敗だ。ちなみに「世界でいちばん難しい恋」は12.9%でこれはコメディ。「太陽と北風の法廷」は12%で、これは弁護士の法廷ドラマで活躍劇。こうしてみると、波瑠にはドロドロの役は似合わない、というか視聴者は求めてないように思える。視聴者は波瑠に対してはやはり、颯爽としたものを求めているのだろう。

そんな波瑠がなぜにこんなドラマの主役を引き受けたのだろう?

もちろん、本当の理由は本人にしか分からないが、一般的には二つの理由が考えられる。

基本的に表現者は、自分の表現の幅を拡げようとする。その理由が二つあるということだが、ひとつは自分の可能性への挑戦。もうひとつは不安だ。

ある役者が当たり役を演じて作品も大ヒットすると、どうしてもその役のイメージが付いてしまう。冬彦さんの佐野史郎もそうだし、半沢直樹の堺雅人もそうだ。堺雅人も達者な役者で数多くのドラマ、映画に出演しているが、半沢直樹以降はどうしてもそのイメージがつきまとう。ソフトバンクやスカパー!のCMも半沢直樹のイメージを重ねて視聴者は見てしまう。米倉涼子も、どうしても大門美智子のイメージがかぶってしまう。

そうなると、まともな役者(表現者)なら、「それしかできない役者」だと思われたくないという気持ちになる。また、それしかやってなければ視聴者に飽きられてしまうという恐怖心もある。

これは音楽アーティストも同じで、大ヒットを出した後、まったく違う方向性のアルバムを作って大ゴケするアーティストもけっこう多いが、このような心理が働くからだ。

人気を維持するという意味では、大ヒットを出した、当たり役に恵まれたとなれば、ファンが飽きるまでそれを繰り返すほうが得策なのだが、意外とこれは難しい。

波瑠も「あさが来た」でブレイクしてから1年以上経ち、そろそろそのイメージから脱却したかったのかもしない。役者としての幅を拡げる意味でも。しかし、僕らか見れば、それはまだ時期尚早だったと思う。波瑠は今の若手女優の中でも独特の空気感を持った女優なので、もっともっとその独自性を活かすべきだと思う。演技やイメージの幅を拡げるのはその後でも遅くない。

とうか、偉大な役者というのは実は達者な役者のことではない。高倉健さんはなにをやっても高倉健だし、吉永小百合さんはなにをやっても吉永小百合だ。偉大な表現者とは偉大なマンネリのことでもあるが、実はそれができるだけの才能はそうではない。しかし、波瑠にはその資質はあると思う。次回作以降は、自分の特性を活かして、それを進化(深化)させる方向で役者として成長して欲しいと願う。

東出昌大に対抗できるキャラは誰?

ところで(さらに余談だが)、「あなそれ」が今後ブレイクするには、東出昌大の怪演に加えて、怪演サブキャラが必要となる。「ずっとあなたが好きだった」で言えば、冬彦さん役の佐野史郎の怪演に加えて、母親役の野際陽子の怪演も際立っていた。この二人の怪演があってこそのブレイクだったと思う。

これになぞらえて言えば、「あなそれ」の場合は誰か? 個人的には美都(波瑠)の不倫相手の光軌の奥さん=有島麗華役の仲里依紗ではないかと思っている。原作ではどのような展開になっているか、読んでないので知らないが、ドラマではぜひ東出昌大と仲里依紗の狂気の怪演の絡みを見てみたい。仲里依紗はそれができる女優ではないかと思っている。

 

 

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竹井善昭

CSRコンサルタント、マーケティング・コンサルタント、メディア・プロデューサー。一般社団法人日本女子力推進事業団(ガール・パワー)プロデューサー。

ダイヤモンド・オンラインにて「社会貢献でメシを食うNEXT」連載中。
http://diamond.jp/category/s-social_consumer
◇著書◇「社会貢献でメシを食う」「ジャパニーズ・スピリッツの開国力」(共にダイヤモンド社)。 ◇翻訳書◇「最高の自分が見つかる授業」(Dr.ジョン・ディマティーニ著、フォレスト出版刊)

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