人はなぜ、クラシック音楽を敬遠するのか?
冬の訪れとともにクラシック音楽が聴きたくなる。
そんな人がどれほどいるかは分からないが、真夏の夜より冬の夜の方がクラシック向きという人は多いと思う。
僕は音楽に関しては雑食で、オールド・ロックからEDMまでなんでも聴く。最近のお気に入りは水曜日のカンパネラの「アラジン」と楓坂46の「サイレント・マジョリティ」だ。しかし、ジャンル別に言えば永遠のフェイバリット音楽はクラシックなのである。しかし、世の中で「クラシック音楽が好き!」という人は少ない。特に若い人はそうだ。これは非常にもったいないことだと思う。
クラシック音楽は誤解されている。
多くの人、特に若者がクラシックを聴かない最大の理由は「クラシックなんかつまらない、退屈だ」と思っているからだろう。
しかし、それは大いなる誤解だ。これまでロック、フォーク、ジャズ、フュージョン、ブラック・コンテンポラリー、アダルト・コンテンポラリー、ラテン、エレクトロニカ、ハウス、K-POP、そしてEDMに至るまで、本当にさまざまな音楽を聴いてきた僕から言わせれば、世界で最も官能的な音楽、それはクラシックである。そのことが分かれば、クラシックが好きになる。
官能的というのは簡単に言えば「気持ちいい」ということだ。
EDMなどのクラブ・ミュージックは多くの人を陶酔させる力があるが、クラシックには魂のレベルから人をトロトロにする力がある。しかし、多くの人はそのトロトロ・パワーを知らない。なので、クラシックを誤解したままになり、好きにならない。
なぜ、クラシックの陶酔パワーを理解できないかというと、それは「いい音」で聴いていないからだ。
かくいう僕も、最初からそのことを理解していたわけではない。
若い頃の僕は、世界で最も官能的な音楽はマンボだと思っていた。ラテン系の音楽は総じて官能的だが、その中でも特にマンボは肉感的で官能的だと思っていた。その認識は今でも変わっていない。しかし、「もっとも官能的」という意味で言えば、それは実はクラシックだと、ある日気づいたのだ。
そのきっかけはオーディオである。40歳くらいの時にわけあってもう一度、音楽というものに向き合おうと思い、オーディオ器機を全部買い換えることにした。
高級オーディオは金がかかる。スピーカーセット(二本一組)で数百万円などザラの話、スピーカー・ケーブルだけでも数万円はする世界。本当のマニアは部屋のコンセントも変える。木製のコンセントにすれば木製の音が。金属製のコンセントにすれば金属的な音が鳴る。一般的なプラスチックのコンセントでは、プラスチックの音しか鳴らないのだ。そんな世界なので本格的にやろうとすれば千万円単位の道楽になってしまう。しかし、幸いなことに高級オーディオの世界は中古品市場が充実していて、中古なら世界の一流品が安く買える。というわけで、オーディオ・マニアのみなさんからもそれなりに評価してもらえる程度のセットに組み替えることができた。
クルマにたとえれば、国産の大衆車がベンツ、ジャガーになったくらいのグレード・アップで、聞こえてくる音も別次元になった。
そして、そのオーディオ・セットで聴くクラシックが素晴らしかった。そこで気づいたのだ。自分が今までクラシックはつまらないと感じていたのは、聴いていた音が悪かったせいだと。
いい音で聞けば分かるが、クラシックという音楽は本当に官能的で陶酔できる。クラシックのコンサートに行くと、演奏途中で寝ている人がいるが、あれは退屈で寝ているのではなく、陶酔して寝ているのだ。僕も、コンサートでよく寝る。
というわけで、クラシックなんか退屈だと思ってる人は、ぜひ「いい音」でクラシックを聴いてみて欲しい。そうでなければ、本当の魅力が分からない。
しかし、前述したとおり、高級オーディオは金がかかる。化粧品や洋服に金をかける素敵女子のみなさんも、オーディオには金をかけたくないだろう。というわけで、少ない予算でもっともコスパの高い「いい音」の聴き方をお伝えしよう。
数万円の投資で世界が変わる。
最も安価で手っ取り早い方法は、イヤホンを変えることだ。
いまどきはほとんどの人がスマホで音楽を聴いていると思う。それも、付属品のイヤホンで。
このイヤホンを買い換えるだけで世界が変わる。
お勧めは、SHURE(シュア)というメーカーのイヤホンだ。SE215という機種は約12000円程度。その上のSE315とうモデルは約21000円程度。これだけの投資で、今まで聞こえなかった音が聞こえるようになり、何度も聞いてきたお気に入りの曲が、まったく違った表情を見せる。しかも、このSHUREのイヤホンは音漏れが極端に少ないので、電車の中でかなりの大音量で聴いていても周囲の迷惑にならない。Amazonでも量販店でも売ってるので、騙されたと思って買ってみて欲しい。いままで安物のイヤホンに騙されて、いかに雑な音楽を聴かされていたかが分かるだろう。
これをきっかけに、もっといい音で聴きたくなったら、今度はヘッドホン・アンプを買ってみる。スマホやパソコンとイヤホン、ヘッドホンをつなぐアンプだが、音のエネルギーが違ってくる。特に低音の重量感、パワー間が違ってくるので、ダンス系の音楽を聴くと今まで以上にグルーブ感がアップするが、クラシックでも全体の迫力が増す。
初心者にお勧めなのは、TEACというメーカーのHA-P50という機種で約2万円程度。またはONKYOのDAC-HA200。こちらは17000円程度(これらは中身は同じだがチューニングが少し違う)。もう少し頑張れる人には、OPPO(オッポ)というメーカーのHA-2という機種。こちらは4500円程度だ。
もちろん、金をかければもっと素晴らしい音を聴かせてくれるイヤホン、ヘッドホンアンプはたくさんある。どこまでも上には上がある世界だが、まずはこのあたりから始めてみて欲しい。
しかし、ことクラシックに関して言えば、どれほどの金をかけたとしてもライブ(生演奏)には勝てない。
これは音楽の特質によるものだ。たとえば、打ち込みが基本のダンス音楽の場合、電気回路を通ってスピーカーから出る音が「生音」だし、ロックもアンプを通して出てくる音が生音だ。しかし、クラシックの場合、楽器から出てくる音自体は生音ではない。
クラシックという音楽の特質は「響き」だ。つまり、バイオリンやピアノなどの楽器から出た音がホールの空間の中で響く。この響きこそが、クラシックという音楽の本質である。
もちろん、他の音楽ジャンルでも響きは重要だが、クラシックは特に重要、ピアノのソロ演奏も、フル・オーケストラの演奏も、本質は「響き」を聴かせている。
そして(当たり前だが)、オーディオにいくら金をかけても、ホールのアコースティクス(響き)は再現できない。どこかの大金持ちが、たとえサントリー・ホールとまったく同じような空間を自宅に作ったとしても、そこで鳴らすオーディオの音は(当然ながら)生のオーケストラのものとは違う。
また、ロックなどでは、そもそもレコード(CD)がオリジナルの作品で、コンサートはそれをいかに再現するか?という側面もある。しかし、クラシックの場合は、あくまで生演奏が作品なのだ。
そんなわけで、クラシックに関して言えば、生演奏に勝る「いい音」は無い。
なので、クラシックをほんとうに理解したければ、コンサートに行くことが一番なのだが、それはベルリン・フィルやシカゴ響などといった世界の一流オケでなければ!というワケでもない。東京を拠点としたオーケストラもなかなかの力を持っているし、数々の名演を残している。そして、コンサート・チケットも安い。
東京フィルハーモニー交響楽団や東京都交響楽団などの定期演奏会通しチケットなど、S席でも5千円ちょっと。A席だと四千円くらいで買えたりする。東京都交響楽団の場合、25歳未満なら二千円だ。まあ、これらは全8回とかシリーズ券の「単価」なので、実際にはこの8倍の料金は必要となるが、クラシックを理解するタメには、コンサートにまずは通うことが大事なので、その意味でも単価の安いシリーズ券は最適だ。
クラシックのコンサートはポピュラー音楽と違ってステージに近い方がいい席というわけでもない。個人的には、二階席の最前列がもっともコスパが高い席だと思っているくらいで(もちろんホールにもよるが)、A席でも十分に楽しめる。それがクラシック・コンサートの良いところでもある。
1回四千円。シリーズ券だから32000円程度。それで8回もコンサートを楽しめて、クラシックという音楽が分かるようになる、自分の世界が拡がるとすれば安いものだ。
年齢を重ね、社会的な階段を上がっていけば、クラシックが好きであることで得をすることもある。社交のためにゴルフを始める女子も多いが、本当に上を目指すならクラシックの素養も身に付けておいた方がいいと思う。
クラシックのコンサートでは途中休憩があることが多いが、休憩時にはバーに行ってシャンパンなどを飲むこともできる。休憩中にシャンパン・グラス片手にひとりでたたずんでいる女性を見かけることもあるが、なんだか素敵な女性だなあと感じてしまう。女を磨く意味でも、一人でクラシック・コンサートを楽しんでみるのもいいかもしれない。もしかしたら、素敵な出会いがあるかもしれないし、、、