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西野カナの曲は女子力を上げるのか?

○空前の「トリセツ」ブームに感じる違和感

 この度はこんな私を選んでくれてどうもありがとう
ご使用の前にこの取り扱い説明書をよく読んで
ずっと 正しく優しく扱ってね
一点ものにつき返品交換はご了承ください

人型ロボットの取り扱い説明書を思わせるような書き出しから始まる 西野カナの「トリセツ」が、巷でブームとなっている。楽曲配信のレコチョクによると西野カナの全133曲中人気ランキング1位の「トリセツ」は、西野カナ自身が周りの女子の声を聞きながら作詞したものだという。発売日は2015年9月9日で、すでに半年以上が過ぎたが未だ根強い人気を誇っている。

「トリセツ」は、私(彼女)の取り扱い方をあなた(彼氏)に向けてレクチャーする取り扱い説明書という形で書かれている。多くの女子が共感し、支持しているというこの曲の中では、不機嫌なときの対処法、プレゼントについて、彼女の褒めどころなど、鈍感な男子たちには目から鱗の曲であり、普段なかなか言えない女子にとってはよく言ってくれたという画期的な曲に思われる。私自身全部ではないが共感する部分もある。それでもなぜか違和感がある。これはなぜだろうか。

○「ありのまま」ブーム

「トリセツ」はワーナーブラザーズ映画配給映画であり、別冊マーガレットにて連載され、累計140万部を突破した幸田もも子の人気コミックが原作の映画「ヒロイン失格」の主題歌である。桐谷美鈴で実写化したこの作品は、一途でおしとやかといったいわゆる「王道ヒロイン」からはかけ離れた「ヒロイン失格」のヒロインとイケメンたちの恋模様を描いている。 映画のオフィシャルホームページの作品紹介によると「”ヒロイン失格”の女の子。だからこそ女子なら誰もが共感できて思わず応援したくなる」のだそうだ。

「トリセツ」と「ヒロイン失格」の共通点は、「ダメな私をそのまま受け入れてほしい」という女子たちの願望が見えることだ。ここであるドラマの題名が浮かぶ。TBS系列で2016年1月~3月まで放送された「ダメな私に恋して下さい」だ。このドラマの原作は、マーガレットコミックス「YOU」に人気連載中の中原アヤによる同名コミックである。ヒロインに深田恭子、相手役にディーン・フジオカが配役され、最終回の視聴率が同期間放送していたドラマ13作品中4位の10%という人気ぶりだった。この作品でも、「ありのまま」の「ダメ」な女子が恋愛ドラマの主人公である。

「ありのまま」といえば、ディズニーの「アナと雪の女王」である。2014年3月に日本で初公開されてから丸2年、いまだに人気である。この映画最大のヒット曲は「let it go」である。日本語訳では「let it go」の部分は「ありのまま」と訳されている。アニメーションの口の形や歌の尺などを考えると高橋知伽江さんのこの訳は素晴らしい。ありのままの自分でいいと、「自分を自分で認めてあげること」の大切さを歌っているように思うが、日本で「ありのまま」と言っている中には、なんとなく違うものがある。

お気づきだろうか。現在日本の女子が共感する「ありのまま」とは、「ダメな自分」であり、それを自分で受け止めて認めるのではなく「他者に受け入れてもらいたい」のである。これが、私がここまで感じてきた違和感の一つである。

自分のダメなところは認めつつも、変えていく努力をするべきだと思うのだが、丸ごと相手に受け入れを強要する図々しさを感じる。自分にとってダメだと思えたり、「こんな自分」と思えることは、相手にとってはさらにダメだし、「こんな自分」以下なのである。

○違和感の正体

違和感はこれだけではない。私の感じるもう一つの違和感は、「女子なら誰もが共感できる」という前提やメッセージである。

私も自分で自分の嫌な部分はたくさんあるし、「トリセツ」の歌詞に共感する部分もあるし、「こんな」自分をまるまる受け入れてくれるイケメンがどこかにいたらと願う気持ちもわからなくもない。しかし、最低限見えないようにしたり、改善しようとしたり、自分なりに努力しているのである。それは、社会では「こんな」「ダメな」自分を全員が受けれいてくれるものではないからだ。社会で多くの人たちと円滑にコミュニケーションをとるには、相手のことを大切にする。そう思ったら「ダメな」自分ではいられないのだ。

ダメな自分と向き合いながらも、明日はもっと素敵になろうとしている中で、あたかも「女子代表」として「トリセツ」を歌われたり、それに共感していることが「女子」であると言われてしまったら、なんだかがっかりするし、イライラしてしまう。それを言っちゃあおしまいだよと思うのである。

○お母さんみたいになりたいけど、お母さんみたいにはなりたくない女子たち

最後の違和感を発表する前に、「女子代表」の西野カナの女子力とはなにか考えてみる。結論からいうと、西野カナの女子力とは、父親に対する母親の姿である。

西野カナの歌詞は、受け身恋愛の内容が多い。メールや電話を待ってみたり、会いたいと言ったり。「トリセツ」も扱ってもらうもの目線の一見主張的な歌詞だが結局受け身である。「darling」では、恋人の抜け殻(脱ぎっぱなしの服)を拾って歩いている。

どこかで見たことがある。そう、幼いころの母親の姿である。

終身雇用制度真っ只中に就職した10~20代女子の父親は、朝から晩まで仕事をして、母親はそれを家で待っている生活だった。どこかさみしそうで、一緒にいる娘に愚痴をこぼし、いつの間にか父への愛も見えなくなる母。そして年齢を重ね、いざ自分が恋愛をするときに、将来を考える恋人に当時の父を重ねてしまい、どこか不安になる。この光景は昔母がやっていたことだと。そして私も愚痴をこぼし、今の様に愛せなくなる時が来るのかと。

こんな現実に、西野カナはとてもいい意味付けをしてくれる。

待っている”かわいい女子”、散らかった服を片づける”かわいい女子”、思ったように扱ってくれなくて拗ねてみる”かわいい女子”。そして思う、「私はお母さんみたいにはならないし、こう感じるのは私だけじゃない。」

○西野カナの曲では女子力はあがらない

女とは家で亭主の帰りを待ち、家事や子供の教育をするものだという従来の考え方はずっと女性を縛りつけ、社会進出や人生を選択するということから女性を遠ざけてきた。

西野カナを支持する女子たちは、自分が置かれている現状や母親を通して見てきた恋愛関係というものを正当化することで、どこか癒しを得ているのではないだろうか。

ここが、私の感じるもう一つの違和感の正体である。女性が縛られてきた時代の関係性に近いものを実感したり、何か自分が自由ではないという感覚を持ちながらも、「女子はこういうものだから」と、女子が女子を縛り付けている気がしてならない。

今日、女子はもっと自分の好きなように生きることができるはずである。自分の理想の関係性やキャリアプランを持つこともできる。ただし、自分の好きなように生きるためにはもっと能動的に主体的な思考を持たなければならない。西野カナの歌声は素晴らしいし、歌詞も共感できるかもしれない。しかし、もっと自分の今、自分の未来、自分は何をしたいのかを考えて、従来の女性概念という縛りから自由にいきていく女子が増えていくことを願う。

 

 

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Hanu

Hanu

社会人一年目の人材系営業女子。大学ではジェンダー学を学び、女性が自由に生きるための社会を目指してガールパワーユースに参加。趣味は海、旅行、ダンス。

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