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リオ五輪で感じたグローバル人材育成の重要点

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平賀 富一

平賀 富一

主席研究員アジア部長ニッセイ基礎研究所
ニッセイ基礎研究所主席研究員アジア部長/新潟大学大学院教授 企業のアジア戦略担当、外務省の対アジアODA担当、シンクタンクのアジア諸国等の政治経済分析担当、アジア等国(ソブリン)・企業等の格付け担当の経験を踏まえて、アジアを含むグローバルな企業経営・アジア経済、サービス業の国際化、グローバル人材の育成、アジア保険市場の動向などに関心を持って研究しています。また新潟大学大学院で教授、上智大学(総合グローバル学部・経済学部)と東洋大学(経営学部)で非常勤講師として、国際経営論や国際ビジネス等の講義を担当しています。最近は、アジアの企業経営や経済、グローバル人材の育成などをテーマに、中堅・中小企業の方々や海外の研究者・官僚等を対象としたセミナーでお話しする機会が増えています。

リオ・オリンピックで感じたグローバル人材育成の重要点
女子選手の大活躍で感じたGirl Powerへの期待

私は、日本企業も含め各国の企業の活動のグローバル化が進展する中、その活動の中核を担う、いわゆる「グローバル人材」の研究をしており、その関連で、先日のリオ・オリンピックを観戦する中で感じた重要点について述べたいと思います

企業のグローバル化を進める上で最大の課題は人材とされており(例えば、経済同友会の調査では85%もの企業がそう回答しています)、日本人のグローバル人材(海外駐在員がその典型)の育成・確保には以下のような課題が指摘されています。

①海外駐在員の高齢化(93年:41.3歳→2006年:46.1歳へ上昇)。また、若手社員の多くが海外勤務を敬遠する傾向にあることも指摘されています。最近の調査結果では、過去最高の数値となる新入社員の63.7%が「海外で働きたいとは思わない」と回答しています(産業能率大学による2015年「第6回新入社員のグローバル意識調査調査」による)。

②単身赴任者の比率が他国の企業に比べて非常に高くなっています。この点で対照的な例が韓国です。希望する就職をする上で必要な子供の英語力を、企業の費用負担や補助で身に着けるチャンスとして海外勤務に家族を帯同することに積極的で、日本の状況とは大きな差があります。この結果、多くの地域で、現地在住の邦人よりも韓国人の方が大きな数となっており、現在、日本企業が最も注目する投資先の代表格であるインドネシアではその比率が1:4と4倍にもなっています。現地居住者数の大きな差は、その地域や社会における日本のプレゼンスという面でも課題があると言えます。

さらに、

③海外駐在員の予備軍たる海外への留学生数も、中国・韓国などの増加と対照的に減少・伸び悩みという傾向にあり、英語力の水準も世界的に下位に低迷していることも問題です(留学に必要な英語力を測るTOEFLの2010年の国別ランキングで、日本は、世界163か国中135位、その内、アジア30か国中の27位となっています)。ただ、英語力の点については、現代の若者が決して上の世代よりも英語力が低下したということではないようで、中国やインド・韓国、アセアン諸国など他国の英語力の水準が急速に向上しているために相対的な地位の低下となっているようです。

上記のように、かつては、自社のみならず日本の代表として、意識の面でも、昇進や待遇の面でもモチベーション(動機付け)・誇りを感じることが多かった海外勤務は、海外勤務や海外旅行が一般的になる中、特別なものではなくなり、日本の安全・安心を重視する若者にとって相対的な魅力が低下しているといえます。私は3つの大学でグローバル経営論に関する講義を担当していますが、グローバル関連の科目を受講している学生や、その中でも海外での滞在経験のある学生の相当数が「日本は良いコンビニがあって便利で、安全・衛生的なので海外に行く必要はないと思う」と述べるのを聞いて驚くことも多いです。また知人の「国際マーケティング論」の教授は、毎年、学部のゼミの学生と一緒に海外に研修旅行に行くそうですが、最近、タイに着いて2日目に「先生、タイ料理はもういいから和食が食べたいと」言われたそうです。

そのような中でも、もちろん、ある一定比率の若者は海外での勤務や留学に意欲があります。男女別では女子の方が男子よりも海外留学に意欲的であるとの調査結果があります。

また、上記の私の講義の例のように開講当初は、海外へ行くことにネガティブだった受講生の中にも、現代における世界の状況と日本のポジション、世界的に著名な日本企業の創立者の高い志やその発展の歴史や企業活動、日本の若者に開かれたチャンスなどを知るにつれて海外志向が高まる人たちが増える傾向があります。多くの受講生が言うのは、「中学・高校などもっと早い段階でその話を聞きたかった、そうすればもっと海外留学や勤務にも積極的になれたと思う」とのコメントです。このような状況を見ると、重要なことは、若者に、海外での勤務や生活に魅力を感じてもらい、積極的にチャレンジし活躍する若者を育成するには、早い時点で、海外で学んだり働くことに意義や興味を持ってもらうこと、そのためのモチベーションを与えることであり、そして各人のやる気を促し希望を実現するための組織的な制度・環境に整備とサポートが重要だと考えています。

普段、そんなことを考えている私にとって、今回のリオでのオリンピックの日本選手団の活躍はとても示唆に富み勇気を与えてくれる好機でした。特に女子選手の活躍は印象的でした。各競技で活躍し多くの感動を与えてくれた選手はもちろん、指導者・コーチ陣に、スポーツでの感動に加えて、グローバル人材育成に関する大きなヒントや示唆を感じました。

以下に、重要だと思ったポイントを挙げたいと思います。

リオ五輪での日本人選手の活躍に見るグローバル人材の要件

1.大きなモチベーション:日本代表としての誇りと自覚・責任感、メダルや記録など明確な目標は大きなモチベーションであったと思いますし、その強い想いが厳しい局面でも粘りとして現れ大きな成果を挙げたものと思います。

2.ロールモデルの存在:井上康生監督・北島康介選手・吉田沙保里選手・内村航平選手などが典型と思いますが、あの先輩や選手のようになりたい、なれると思う、また、高いレベルまで到達している先輩・選手がいるからこそ、その上を狙いたいという強い動機・自信がもてるのだと思います。また、平井伯昌氏や井村雅代氏など実績に裏打ちされた信頼できるコーチの存在も非常に大きいと感じます。

3.各人の目標を実現・達成するための環境の整備、戦略的・組織的・計画的な取り組み:多くの競技で、戦略的・計画的・組織的な取り組みが行われていて、それに対する予算の重点配分や多くの企業の支援により、科学的・合理的なトレーニングが行われています。ある競技が優れた取り組みで成果を挙げるとそれがベストプラクティスとなって他の競技に良い意味で刺激を与え波及するという良い流れも重要だと思います。

4.海外・異文化の環境での取り組みや強化:上記の取り組みは決して、日本の国内にいる日本人だけで行われているのではなく、海外での優れた技能やノウハウの習得、海外での厳しい競争環境を経験し鍛えられること、外国人の有能な指導者の招聘などが大きな役割を果たしています。また、若年時から海外でのトレーニングや試合を数多く経験する人たちも増えています。

5.チーム力・組織力の発揮:所属クラブや企業など、所属組織の枠を超えた協力・支援が、各選手にとっての大きなサポートとなり、個々の競技のみならず日本選手団全体の大きな力になったと考えます。個々人の体力では、日本人選手は外国選手にかなわないケースもある中で成果を挙げる上では、このチーム力・組織力は日本の大きな強みといえるものです。ここで、特に重要なのは、単に日本人だけでなく、異文化・異国のルーツももつ方々や外国籍の方々を含み、その中に女性も多いという、まさにダイバーシティ化の強みを活かしつつ、共通の目標や想いをもった選手と指導者による新たな概念の日本チームであったということだと思います。

以上、今回のオリンピックを例にして、企業などの分野にも通じるグローバル人材育成にとっての重要点と思われるポイントを述べました。日本・日本人の持つ強みや特質を活かし、海外の優れた人材・ノウハウなどを積極的に取り込んで成果を挙げ、ベストプラクティスを作りそれを波及させていくとのモデルは、日本が世界のフロントランナーとして少子高齢化を乗り越え発展するための取り組みを考え実行する上でも大いに参考となると考えます。

例えば、インドなどではOKY(前がってみろ)などという言葉が日本人駐在員の間で流行っているそうですが、高齢で単身赴任の駐在員が、日本の本社からの指示と、中々思うように動いてくれない現地人のスタッフの間に立って苦労している姿には侘しいものがあります。また、バブルの崩壊後に育った日本の若い世代は繁栄の時代を知らず自信がなく内向きと言われることも多いようです。しかし、上記でご紹介した私の担当講義の受講生のように、日本や自らの置かれた情勢・環境やチャンスなどを知れば、海外での勤務や留学についてポジティブな見方への変化が見られることに期待が持てると思います。そのためには、政府・企業・教育研究機関・家庭が連携して環境整備や支援、ベストプラクティスの紹介などを積極的に行うことが大切です。

今回のオリンピックで活躍し数々の感動を与えてくれた選手や指導者の中で、非常に大きな存在感を示した日本女性は、グローバル人材としてのGirls Powerに一層の活躍の可能性を改めて示してくれたと大いに期待しています。

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