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電通社長辞任。直属上司は書類送検だが、ハイスペック女子問題は蚊帳の外。

労基局、電通と自殺した東大卒女性社員の元上司を書類送検。社長は辞任へ。

自殺した電通新入社員(当時)の高橋まつりさんの自殺が今年の9月に労災死認定されたことを受け、厚生労働省東京労働局は電通と高橋さんの元直属上司を書類送検した。容疑は、違法な長時間労働を強いていたという、労働基準法違反だ。

この書類送検を受けて、電通の石井社長は28日夜に記者会見。来年1月に引責辞任する意向を発表した。

社長の辞任は企業に取っては大ごとである。しかし、今回のポイントはむしろ、直属上司の書類送検にある。

部下を生かすも殺すも直属の上司次第であり、今回のケースでは文字通り「殺してしまった」わけだから、その責任は法人である電通だけでなく、直属上司個人にも課せられるべきだ。しかし、企業が大きな不祥事を起こした場合、企業トップは責任をとって謝罪したり辞任したりするが、現場の責任者が社会的におおっぴらに責任を取らされることはあまりない。

今回の件でも、9月に過労死認定されて以来、電通は謝罪や労働環境改善の発表などを行っている。しかし、問題の直属上司の処分に関しては一切、発表がない。マスコミやネットでもこれだけ大きな話題となり、政府も「働き方改革実現会議」まで設置して是正しようとしている長時間労働、過労死問題は、日本の大きな社会問題である。その社会問題の象徴とも言える事件を引き起こした張本人の処分を一切、発表しないということは、電通はこの直属上司をなにも処分していないのではないに等しい。社内的にはなんらかの処分はあったのかもしれないが、事が事だけに、処分したならしたでその詳細な内容を公表すべきだろう。

当たり前だが、問題を起こしても処分されなければ、人は反省しない。電通がこの直属上司をなにも処分していないとすれば、経営者が世間に対してなにを言おうが会社の文化は変わらない。

その意味で、労基局がこの上司を書類送検したことは社会的インパクトが大きい。ことは電通だけでなく、他の大手企業の管理職にも影響するからだ。

大企業の管理職は、経歴に傷がつくことを極端に恐れる。そういう特性のある人たちに対して、長時間労働を部下に強いると刑事罰がつくことがあるよという脅しは、十分な抑止力になるはずだ。その意味で、今回の直属上司の書類送検は、日本の大企業(の管理職)全般に大きなインパクトを与えるかもしれない。ムダな長時間労働による過労死もなくなるのかもしれない。しかし、もうひとつの大きな問題は放置されたままである。パワハラ問題だ。

何人の女子が死ねば、日本社会はハイスペック女子問題を認識するのか?

報道に拠れば、高橋さんは自殺前にうつ病を発症していたというが、問題はその原因だ。かねてより僕は、高馬氏まつりさんの件はハイスペック女子に対するパワハラ問題であり、単に過労死としてのみ問題視することは間違いだと指摘し続けてきた。

あるいは、ダイヤモンド・オンラインのこちらの記事。

「電通女性社員自殺」を単なる過労死にすべきでない理由

高橋さんが生前に残していたツイッターでの投稿をみても、彼女が直属上司から執拗にパワハラを受けていたことは明白である。

同世代の女子とこの件で話をしても、彼女たちが異口同音に「東大を出たような女子が、月100時間程度の残業だけが原因でうつになり、自殺するとは考えにくい」と語る。僕も同感だ。しかし、ここに執拗なパワハラ問題があったとすれば、高橋さんがうつ病を発症し、自殺に至ったことは理解できる。

労基局は今回の件を過労死問題としてのみ追求している。そのことに対する批判はネットにもあるが、それはしょうがない。そもそも、労働基準法にパワハラに対する罰則規定は無い。労働基準局とはその名のとおり、労働基準法に基づいて企業を指導したり摘発したりすることが仕事だ。法律に規定が無い以上、行政としては手が出せない。

マスコミも同様で、この件を大きく報道できるのは、労基局が過労死認定したからだ。現場の記者がいくらパワハラ問題を感じていたとしても、証拠が無いことを新聞やテレビは報道できない。推測や憶測では報道はできないし、行政や警察が事件化していない問題を綿密な調査報道に拠ってあきらかにする役目が報道機関にはあるが、それには長い時間がかかるし、大きなリスクも負う。そう簡単に「これはパワハラ問題だ」と断言できない事情がある。

しかし、だからといって今回の件を「過労死問題だけ」として片付けてしまうと、問題の本質は解決されない。パワハラ問題、いじめ問題はなにも解決しないし、解決しなければという気運も起きない。

長時間労働問題を解決してもパワハラ問題が解決しないのは、他の大手企業の実態をみれば明らかだ。電通や大手コンサルでは長時間労働が常態化しているかもしれないが、基本的に今の日本の大企業は過労死するほどの長時間労働はあまり存在しない。少なくとも、現場に対してもその方向で圧力がかかっている。しかし、だからといってハイスペック女子に対するパワハラ、いじめ問題が無くなっているわけではない。

ハイスペック女子問題を引き起こす男の嫉妬。

ハイスペック女子に対するパワハラ、いじめ問題が生じる最大の理由は嫉妬だ。

昔から、男の嫉妬は女性のそれよりたちが悪いと言われてきたが、男性上司のハイスペック女子部下に対するそれはさらにやっかいだ。それは男のプライドに関わることだからだ。

大手企業の男性社員の中には、昔ほどでは無いにしても、いまだに学歴に対するプライドがムダに高い人間もいる。

先日も、ある慶應卒の男性から「慶應はブランドですから」とハッキリ言われてのけぞったことがある。確かに、慶應大学がある種のブランド大学であることは確かだが、それを堂々と(慶應卒でもない人間に対して)述べるというのは、やはり特殊なプライドの持ち主だなと思う。しかし、このような学歴コンプレックス(プライドとコンプレックスは表裏一体だ)の人間が、高学歴女子に対する理不尽な感情、嫉妬を持ちやすいことも確かだ。

ハイスペック女子のみなさんと高橋まつりさんの件で会話していて、半ば冗談で「(まつりさんの)上司はきっと慶應卒の男だったに違いない」と言うとみんなが笑う。この話のポイントは、早稲田卒や東大卒ではジョークとして成立しないところだ。本当にその上司が慶應卒なのかどうかは不明だが、慶應卒の男性上司が東大卒の若い女子社員にネガティブになったり、むかついたりすることは、ハイスペック女子からすればまさに「あるある」なのだ。

もちろん、事は慶應卒に限ったことでは無い。ある海外一流大学を卒業した女子は、同僚の男性がやたらとライバル心をむき出しにしてきてウザいと言う。それで「その男性は京大卒でしょう?」と言うと、「そうです」と笑っていた。もちろん、慶應卒、京大卒の男性がみんなそんなだとは言わないが(むしろ少数派)、そのような傾向の男子が他の大学卒に比べて比較的多いというイメージは多くの人に持たれているということだ。

企業社会の中には、学歴が唯一のプライドの拠り所という男もまだまだ多い。そんな男性社員がハイスペック女子の上司になれば悲劇だ。キレイにしていれば「派手すぎる」と文句を言い、地味にしていると「女子力なさすぎ」とけなす。仕事で結果を出せば「やり方が気にくわない」と文句を言い、取引先の重役に可愛がられれば「オレの頭を飛び越すな!」と激怒する。抜群の営業成績を上げた女性社員は、不正な取引をしていると根拠の無い噂を流されたりする。

このような理不尽な問題はすべて、男の嫉妬から生じる。男であり、年上でもある自分より、学歴も営業成績も良い若い女は許せないのだ。

このような、悪しきジェンダー・バイアスを払拭しなければ、いくら長時間労働を無くしたところで、ハイスペック女子問題は解決しないのだが、最大の問題点は、日本の企業社会の中にハイスペック女子問題が存在していることが認知されていないということだ。もっともやっかいな社会問題とは、それが問題であると認識されていない問題なのである。まるで日本との間に領土問題は存在しないと言い張っている中国やロシアのように、大企業の男性社員はやっかいな存在なのだ。

問題解決の糸口は、まず「その問題が存在する」と認識することだ。それなくしては、どのような問題も解決しない。今回の電通事件において、マスコミがこれをハイスペック女子問題として話題にしないことを僕が危惧する理由である。いったい何人の女子が死ねば、日本社会はハイスペック女子問題の存在を認めるのか? 日本の企業社会は、日本経済がどこまで落ち込めば、自分たちが優秀な人材(ハイスペック女子)をいかにスポイルしているかに気づくのだろうか?

日本が経済大国であるというのは幻想だ。GDP世界三位、製造業生産額も世界3位、輸出額ランキングで世界4位。これらの数字をみて日本は経済大国だと信じている日本人も多いが実態は違う。1人当たりGDPは世界第27位。1人あたり輸出額は世界第44位。国民1人あたりの製造業生産額はG7平均の半分以下。サービス業の生産性もG7で最低だ。

かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とまで賞された日本経済をここまで落ち込ませたのは誰か? その原因はなにか? 優秀なハイスペック女子をスポイルしてきた日本の企業文化である。実際、女性の給与水準と、その国の生産性の高さは比例するというレポートもあるが、日本の女性の平均給与は男性の半分程度。女性の能力がまったく活かされていない。

その意味でも、ハイスペック女子問題の解決は日本経済の浮沈がかかっている。男が優秀な女子に嫉妬して意地悪している余裕など、もはや日本にはないのだ。高橋まつりさんの件を機会に、そのような議論が起きないことが残念でしかたがない。

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竹井善昭

CSRコンサルタント、マーケティング・コンサルタント、メディア・プロデューサー。一般社団法人日本女子力推進事業団(ガール・パワー)プロデューサー。

ダイヤモンド・オンラインにて「社会貢献でメシを食うNEXT」連載中。
http://diamond.jp/category/s-social_consumer
◇著書◇「社会貢献でメシを食う」「ジャパニーズ・スピリッツの開国力」(共にダイヤモンド社)。 ◇翻訳書◇「最高の自分が見つかる授業」(Dr.ジョン・ディマティーニ著、フォレスト出版刊)

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